「2度書き」

法令の委任例規には、当該法令の規定も併せて規定することで一覧性を確保すべきであるという意見がある。例えば、兼子仁ほか『政策法務事典』(P157〜)には、次のように記載されている。

また、規制の基準の項目、数値を定めることについては、主要なものを省令で定め、残ったものを自治体の条例や規則で定める場合がある。その際、伝統的な法制執務の考え方では、省令で規定している事項を除いた部分のみを条例・規則で規定する方法をとるが、それでは、虫食いのような規定となって、大変わかりにくい。いちいち、省令と条例・規則を見比べながら、合体させて見なければわからないものとなってしまう。
そこで、「省令で定めるところにより」と付記したうえで、省令の規定を条例あるいは規則に再規定する、いわゆる「2度書き」をあえて行えば、解決できる。この「2度書き」をすることにより、基準の一覧性を保つことができる。加えて、総合的な見地から、省令で規定したもの以外のものを地域の特性を反映させた、自治体独自の項目として加えることができるので、「本体」を自ら規定していなくても、そのルールを自らのものにすることができるのである。

これは、法律で規制の基準等を省令に委任し、その省令における当該基準等の規定でその一部を「その他条例(規則)で定める○○」といった形で条例等に委任することを想定した記述であると思われる。
法令の委任例規において、当該法令に規定されている事項をさらに規定することで、分かりやすさという観点から一覧性を重視しようとする考え方自体は理解できる。しかし、立法技術的には、法令の委任例規の書きぶりは、当該法令の委任規定の書き方によって、ある意味必然的に決まってくるものであるので、法令に規定されている事項をあえて書かないことが単に伝統的な法制執務の考え方であるとするのは、やや単純な見方のように感じる。少なくとも、「省令で定めるところにより」と付記して「2度書き」すればいいといわれても、具体的にどのような書きぶりになるのか、私はイメージすることができない。
ただ、立法技術的には「2度書き」をすることも不可能ではないだろう。その際には、次の政令の規定が一つの参考になると思う。

予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)
(契約書の記載事項)
第100条 会計法第29条の8第1項本文の規定により契約担当官等が作成すべき契約書には、契約の目的、契約金額、履行期限及び契約保証金に関する事項のほか、次に掲げる事項を記載しなければならない。ただし、契約の性質又は目的により該当のない事項については、この限りでない。
(1)〜(8) (略)
2 (略)
(参考)
会計法(昭和22年法律第35号)
第29条の8 契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。
2 (略)

予算決算及び会計令第100条第1項で規定している「契約の目的、契約金額、履行期限及び契約保証金に関する事項」は、会計法第29条の8第1項に規定されている事項である。政令でもあえて規定したのは、法の「政令の定めるところにより」という委任の仕方によるのかもしれないが、必ず書かなければいけない事項ではない。したがって、この政令の規定は、「2度書き」をしているといえばそういえないこともないだろう。
そこでこの規定を参考にして、上記で記載したように、省令で「その他条例(規則)で定める○○」とされている場合に当該省令の規定を併せて規定しようとするのであれば、「○○法第○条に規定する○○は、○○法施行規則*1第○条に定める……のほか、次に掲げる○○とする」といった書き方をすることが考えられる。
さらに、省令で規定している事項が各号で書かれている場合で、それが例えば3つであるときは、「○○法第○条に規定する○○は、○○法施行規則第○条に定める第1号から第3号までに掲げる○○のほか、第4号から第○号に掲げる○○とする」といったようにして、当該事項を含めて各号で書くことも考えられるだろう。

*1:省令のこと。