経過規定の書き方(その1)

経過規定をどのように書くかについては、私は、最初は類似した案件で置かれている経過規定を調べ、それを参考に書いていたのだが、次第に法令等の手本がなくても書いていけるようになった*1。その際に、気を付けていたことを記載したい。
経過規定は、新規制定の場合よりも、改正の場合の方が数倍難しいと思う。それは、改正の前後の規定を見比べて、具体的に経過措置を置く必要があるかどうかを判断しなければいけないからであろう。結局、新旧対照表を見ていくときに、経過措置の要否も併せて意識するなどして、地道に、逐一チェックしていくほかないのではないだろうか。そのような作業を重ねていくと、次第に改正内容を見た段階で、どんな経過措置が必要か思い浮かぶようになっていくものである。
次に、経過措置が必要な場合をケースごとに具体的に拾い出すことが必要だと思う。特に、国の制度等を借りて制度設計しているような場合で、その国の制度等が変わったときに、経過措置を置かなければいけないことは何となく分かっても、どのように書いたらいいか分からなくなるときがある。それは、経過措置が必要なケースを具体的に意識していないからだと思う。
そして、実際に書く段階では、経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを十分に意識することが大切だと思う。
経過措置が必要なケースを拾い出すことと本則の規定を意識して書くことについては、少し具体的に書いてみたいが、今回は後者について記載することとし、前者は次回に譲りたい。
原課における経過規定に関する案は、往々にして本則の書きぶりを無視したようなものが多かった。実務では、マニュアルに頼っていることも多いと思うが、その中で、例規の言葉とは別の言葉を使うこともあり、あまり例規の言葉を意識していないことが影響しているのではないかと感じていた。しかし、本則の規定を意識するようにしていると、その規定をじっと見ていれば、経過規定の表現はおのずと浮かんでくるようになるものである。
簡単な例を挙げて考えてみることにする。条例で「○○手当」を5,000円支給していたが、それを平成19年4月1日から3,000円に改定するが、扶養親族がある者の手当の額は、1年間は4,000円にする経過措置を講ずる場合を考える。
この改正により、本則の該当規定は次のようになる。

第×条 ○○手当の額は、3,000円とする。

経過規定は、本則の規定を意識して書こうとすると、第×条の規定のうち手当の額を書き換えて、その経過措置の対象となる期間(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)と者(扶養親族がある者)を書いて、この経過規定が第×条の特則である旨を書けばいいことになる。そうすると、次のようになるであろう。

<例1>
(平成19年4月1日から)平成20年3月31日までの間における扶養親族がある者の○○手当の額は、この条例による改正後の△△条例第×条の規定にかかわらず、4,000円とする。

とにかく、本則の書きぶりをよく見ながら書くということに尽きるのではないか。
あとは、もっと合理的な書き方がないか考えてみることになろう。例えば、よくある読替え適用の形で書けば、次のようになる。

<例2>
(平成19年4月1日から)平成20年3月31日までの間における扶養親族がある者に対するこの条例による改正後の△△条例第×条の規定の適用については、同条中「3,000円」とあるのは、「4,000円」とする。

これは、非常に単純な例なので、例2にしてもあまり合理的にはなっていないが、そうした合理性とかニュアンスの違い(例1だと一定期間に限り第×条の特例を定めた感じになるのではないか。事実、見出しも「経過措置」とせずに、「○○の特例」とする場合もあると思う)などを考えて、書き方を決めていけばよいだろう。
今回取り上げた例は簡単な例だが、複雑な事例でなっても、この考え方を応用していけばいいと思う。つまり、複雑な事例といっても、経過措置の必要なケースが経過措置の対象とする者やその期間等に応じて増えるだけのことであるから、そのケースごとにどのような経過規定になるか考えていき、適宜まとめていけばいいだけのことである。具体的には、次回に譲ることにするが、最後に、以前複雑な経過規定を書かなければいけなかったときに参考にした例を掲げておく。

雇用保険法等の一部を改正する法律(平成6年法律第57号)
附 則
(特例一時金の額に関する経過措置)
第9条
特例受給資格に係る離職の日が施行日前である特例受給資格者(以下「旧特例受給資格者」という。)に対する新雇用保険法第40条の規定の適用については、次の各号に定めるところによる。
(1) 第40条第1項の規定の適用については、同項中「第15条第1項に規定する受給資格者」とあるのは「雇用保険法等の一部を改正する法律(平成6年法律第57号)附則第2条に規定する旧日額対象の旧受給資格者」と、「第16条から第18条まで」とあるのは「同条」とする。
(2) 第40条第2項の規定は、適用しない。

このような各号の使い方は考えたこともなかったので、結構驚いたものである。もちろん、項で書いていってもいいのだが、各号で書く利点は、複数の経過措置に共通な事項を何度も書かなくていいということであろう。

*1:もちろん、これはある程度書けるようになってときに、先例等を参考にする必要がないということではない。先例にあたらないと、置かなければいけない経過規定を漏らすことにつながってしまうであろう。