経過規定の書き方(その2)

経過規定がうまく書けない最大の理由は、経過措置が必要なケースを具体的に拾い上げることをせずに、何となく書こうとするからではないかと思う。そのケースを具体的に拾い上げ、かっこよく書こうとせずに、それを項で並べて書いておくだけでもとりあえず十分ではある。また、具体的に拾い出してみると、あえて経過規定を置く必要もないと判断できるケースもある。
今回も具体例を挙げて考えることとしたいが、表彰規則において、助役又は収入役に一定の期間在職した場合に表彰の対象としている自治体も多いと思うが、近時の地方自治法の改正により、助役に代えて副市長を置くこととし、収入役を廃止することとされたため、その改正に伴ってどのような経過規定が必要か考えてみたい*1
ある自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。

<例1>
(表彰の種類及び基準)
第2条 個人又は団体で、次の各号のいずれかに該当する者について選考の上表彰する。
(1) (略)
(2) 市長の職に8年以上在職し、又は助役若しくは収入役の職に10年以上在職し、その功績顕著なる者
(3)〜(10) (略)
(11)その他市制の発展に尽力し、特に表彰することを適当と認めた者

例1の場合、助役と収入役とを合わせて10年やった場合も当然表彰対象にすると思うが、第2条各号に規定する職の複数に在職した場合の期間の通算の規定はないので、第11号該当とするのであろう。また、市長としての在職期間は8年に満たないが、その前に助役を何年かやっていた場合も対象にするときがあるだろうから、それも第11号該当ということになる。
そうすると、第2条の「助役若しくは収入役」を「副市長」に改めることに伴う経過規定を書いたところで、あまり意味はないことになる。私なら、経過規定を書かずに、第11号で対応することを考える(具体的には内規か何かで定めることになろう)。
これに対し、他の自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。

<例2>
(市政有功表彰)
第3条 市政有功表彰は、次の各号の一に該当する者に対し、その功労を表彰する。
(1) 市長として8年以上在職した者
(2) (略)
(3) 助役、収入役及び教育長として12年以上在職した者
(4) (略)
(在職年数の計算)
第6条 (略)
2 第3条各号に掲げる公職のうち2以上の職歴を有する者に対する在職年数については、在職年月数換算表(別表)に掲げる率により、最後の資格による在職年数に換算して算定するものとする。*2
別表 (略)(市長が助役又は収入役として在職したことがある場合は、その在職期間の3分の2を通算することとしている。)

例2の場合は、例1の第11号のような規定がなく、表彰の対象とする者をすべて書ききっているため、第3条第3号の「助役、収入役」を「副市長」に改め(当然、別表も所要の改正をする必要がある)、表彰の対象としたい者をすべて網羅するように経過規定を書く必要がある。
では、この改正関係で経過措置として表彰の対象としたい者としてどのような者がいるかというと、次の者が考えられる(なお、いわゆる三役以外の職に在職した場合も表彰の対象になることがあるのだが、それは除外することにする)。

  1. 助役として12年以上在職した者
  2. かつて助役として在職した者が副市長となった場合(地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律第53号)の施行の際に助役であった者が附則第2条の規定により副市長として選任されたものとみなされた場合を含む。)で、助役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  3. かつて助役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、助役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者
  4. 1〜3で、収入役としての在職期間があるときに、その期間を通算して所定の期間以上となる者
  5. 収入役として12年以上在職した者
  6. かつて収入役として在職した者が副市長となり、収入役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  7. かつて収入役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、収入役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者

このように書き出してみると、この事例は、あまり複雑なケースではないことが分かる。だから、このように書き出してみなくても経過規定を書くことができるだろう。
しかし、このように書き出してみると、実際には考慮する必要がないケースも出てくるだろうから(5に該当する者はすべて表彰済みである場合etc.)、具体的に考慮しなければいけないケースのみを意識して、それを最低限網羅できる経過規定を書くようにすることが重要になる。例えば、処分等に関する経過規定として、「この条例による改正前の○○条例の規定によってした処分、手続その他の行為であって、この条例による改正後の○○条例の規定に相当の規定があるものは、これらの規定によってした処分、手続その他の行為とみなす。」というざっくりとした規定を置くことがあり、これは、その対象となる事項が相当数あるからこのような書き方をするのだが、具体的にどのような事項が対象になっているかは、分かりにくい感じは否めない。しかし、その対象となる事項が少なければ少ないほど該当規定を引用するなどして丁寧に書くことができるので、当然分かりやすくなり、その方が良いことは明らかであろう。
また、経過規定というと「従前の例による」という文言を使うことを思い浮かべるが、このように書き出してみると、2とか6のケースは「従前の例による」という文言ではうまく表現できないことが分かるので、訳の分からない経過規定になってしまうようなミスを防ぐ上でも有効だと思う。
では、具体的にどのように書くかであるが、上記のすべてのケースを拾えるようにするには、助役又は収入役であった場合も従前と同様に表彰対象とし、かつ、その後市長とか副市長になった場合に助役又は収入役としての在職期間を通算することができるようにすればいいのだから、一番簡単なのは、次のように書くことだろう。

<例3>
(経過措置)
2 助役又は収入役として在職した者に対するこの規則による改正後の△△規則第3条及び別表の規定の適用については、同条中「副市長」とあるのは「副市長、助役、収入役」と、同表中‥‥(必要な読替え)‥‥とする。

これに対し、地方自治法の改正が、助役に代えて副市長を置くこととし、収入役を廃止するものであることであるから、それにこだわって書こうとすると、助役は副市長とみなし、収入役も従来どおり表彰対象にするという感じになるであろうから、次のように書くことになるかと思う。

<例4>
(経過措置)
2 助役として在職した者の当該在職期間は、この規則による改正後の△△規則(次項において「新規則」という。)第3条及び別表の規定の適用については、副市長としての在職期間とみなす。
3 収入役として在職した者に対する新規則第3条及び別表の規定の適用については、同条中「副市長」とあるのは「副市長、収入役」と、同表中‥‥(必要な読替え)‥‥とする。

ただ、1のケースは、あくまでも助役に在職したことについて表彰するというのが素直であろうから、これがなければともかく、あまり例4のようにこだわっても仕方がないという感じはする。
最後に余談だが、例2の方がきちんと書いていて良いと思ったかもしれないが、きちんと書いたことにより後のフォローが大変で、必ずしも良いとはいえないことが分かると思う。もちろん、事案によっては詳細に定めなければいけないこともあるのだが、改正することも考えて(さらに他の人が担当することも考えて)、どの程度書くか考えなければいけないことを感じさせてくれる例でもあると思う。

*1:以前、洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yybbs.cgi)で取り上げられていた例を取り上げさせていただいた。

*2:「最後の資格」と「換算」という言葉があまりよくないような感じがする。きちんと書こうとすると、以前に他の職にあった場合には、その在職年数も通算する旨とその通算する方法を規定することになると思う。そして、通算する方法の書き方は、かなり複雑になるが、これ以上は本題とは関係ないので省略する。