附属機関の設置の場合における経過規定

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定に併せて、私の自治体でも個人情報保護条例の改正を行ったが、改正前の条例では、附属機関としてA審議会を置き、次の職務を行わせることとしていた。
① 個人情報の開示決定に対する不服申立てに関して諮問があった場合の審査
② 個人情報保護に関する事項について諮問があった場合の審議
改正後の条例では、①、②の職務に加え、新たに次の職務を附属機関に行わせることとした。
③ 個人情報の目的外利用をする場合にあらかじめ審議会の意見を聴くこととし、その事項の審議
これらの職務を行わせるため、新たにB審議会を置き、③の職務のほか、②の職務もB審議会に行わせることとした。したがって、A審議会は、①の職務のみを行うこととなった*1。なお、以下改正前のA審議会を「旧A審議会」、改正後のA審議会を「新A審議会」と称することとする。
この場合の経過規定を考える前に、まず、旧A審議会と新A審議会を同一のものと考えるかどうかを明確にしておく必要がある。本件では、職務内容に変更が生じること、審議会の設置根拠の規定が条ずれにより変更することから、疑義が生じないようにするため、別のものと考えることにした。
次に、具体的にどのような経過規定が必要になってくるかであるが、本件は、従来の審議会を2つに分けるようなものであるから、このような実例はあまりないと思う。そこで、一般的に審議会に関する経過規定の例を参考にして、必要な規定の追加等をしていくことにした。
法令の例として、次のように、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定の際に、同法に基づく事項を審査する審査会は、従来の情報公開審査会を改組して情報公開・個人情報保護審査会としている場合のものがある。

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成15年法律第61号)
附 則
(情報公開審査会の廃止及び情報公開・個人情報保護審査会の設置に伴う経過措置)
第2条 この法律の施行の際現に第8条の規定による改正前の行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下この条において「旧行政機関情報公開法」という。)第23条第1項又は第2項の規定により任命された情報公開審査会の委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、情報公開・個人情報保護審査会設置法(平成15年法律第60号)第4条第1項又は第2項の規定により情報公開・個人情報保護審査会の委員として任命されたものとみなす。この場合において、その任命されたものとみなされる者の任期は、同条第4項の規定にかかわらず、同日における旧行政機関情報公開法第23条第1項又は第2項の規定により任命された情報公開審査会の委員としての任期の残任期間と同一の期間とする。
2 この法律の施行の際現に旧行政機関情報公開法第24条第1項の規定により定められた情報公開審査会の会長である者又は同条第3項の規定により指名された委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、情報公開・個人情報保護審査会設置法第5条第1項の規定により会長として定められ、又は同条第3項の規定により会長の職務を代理する委員として指名されたものとみなす。
3 この法律の施行前に情報公開審査会にされた諮問でこの法律の施行の際当該諮問に対する答申がされていないものは情報公開・個人情報保護審査会にされた諮問とみなし、当該諮問について情報公開審査会がした調査審議の手続は情報公開・個人情報保護審査会がした調査審議の手続とみなす。
守秘義務等に関する経過措置)
第3条 情報公開審査会の委員であった者に係るその職務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない義務については、第8条の規定の施行後も、なお従前の例による。
2 第8条の規定の施行前にした行為及び前項の規定によりなお従前の例によることとされる場合における同項の規定の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

この規定のうち、附則第2条第3項に相当する規定は、旧A審議会が行った手続を新A審議会の手続とする場合とB審議会の手続とする場合とに分ける必要があるので、それに応じて書き分けることになる。その他の規定は、必要に応じて、そのまま持ってくる。
あとは、③の事項に関して、改正条例の施行日前に意見を聴く手続を用意しておかないと、同日から直ちに当該意見に係る事務を行うことができなくなる場合があるため、所要の措置を講ずる必要がある。それには、同日前にB審議会を設置してしまうか、同日前には旧A審議会に意見を聴けば足りることにすることが考えられる。前者であれば、施行日の書き分けで対応できるが、後者であれば、所要の経過規定を置くことになろう。
ところで、審議会の会議の招集について「会議は、会長が招集する」といった規定を置くことがあるが、以前、会長は委員の互選によることとしている場合には、最初の会議は会長が招集することはできないので、長が招集すればいいのかと聞かれたことである。実際にもそのような取扱いをしているのであろうが、文言だけを見ると困ってしまうので、きちんと書いた方がいいと思ったことがある。実際、法律では次のような例がある。

ユネスコ活動に関する法律(昭和27年法律第207号)
(会議)
第15条 国内委員会の会議は、年2回会長が招集する。但し、会長は、必要があると認めるときは、臨時にこれを召集することができる。
附 則
(第1回の会議の招集)
6 国内委員会の第1回の会議は、第15条の規定にかかわらず、文部大臣が招集する。

しかし、近年の法律では、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)第11条第1項などに会議の招集の規定があるが、上記のような経過規定は置かれていない。会長が決まっていない場合は、その審議会を所管する機関の長が招集するのが当然だと考えているのかもしれない*2
さらに、近年の法令には、会議の招集に関する規定(上記の例だと第15条)が置かれていない例が多いと思う。確かに、会議の成立要件とか議決の方法などは大切であろうが、誰が招集するかは、審議会に関してはどちらでもいい問題なのかもしれない。

*1:このような場合に審議会を新設することの適否もあるが、この点は触れないことにする。

*2:なお、古いが、地方教育行政の組織及び運営に関する法律附則第9条に「前条の規定により新委員が任命された後最初に招集すべき教育委員会の会議は、新法第13条第1項の規定にかかわらず、地方公共団体の長が招集する。」という規定が置かれているが、このような場合は、附属機関と違って当然長が招集すると解することもどうかと思うので、経過規定を置いた方がいい例ではないかと思う。