私的諮問機関(下)

私的諮問機関に関する要綱を立案する場合に、附属機関に関する設置条例で規定する事項のどの部分を変える必要があるかについて、具体例を挙げて記載してみたい。
次に掲げる条例は、ある自治体における附属機関の設置条例である*1

○○市大規模小売店舗立地審議会条例
(設置)
第1条 本市に市長の附属機関として、○○市大規模小売店舗立地審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(所掌事務)
第2条 審議会は、市長の諮問に応じ、次の各号に掲げる事項に関する技術的又は専門的事項について調査審議し、その結果を市長に答申する。
(各号略)
(組織)
第3条 審議会は、委員12人以内をもって組織する。
(委員)
第4条 委員は、学識経験のある者のうちから市長が委嘱する。
2 委員の任期は2年とし、補欠委員の任期は前任者の残任期間とする。ただし、後任者が委嘱されるまでの間は、その職務を行うものとする。
3 委員は、再任されることができる。
(会長)
第5条 審議会に会長を置き、委員の互選により定める。
2 会長は、会務を総理し、会議の議長となる。
3 会長に事故があるときは、会長があらかじめ指名する委員がその職務を代理する。
(会議)
第6条 審議会の会議は、会長がこれを招集する。
2 審議会は、委員(その調査審議事項に係る臨時委員を含む。以下同じ。)の半数以上の者の出席がなければ会議を開くことができない。
3 審議会の議事は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(庶務)
第7条 審議会の庶務は、○○課において行う。
(委任)
第8条 この条例に定めるもののほか、審議会の運営に関し必要な事項は、会長が審議会に諮って定める。

この審議会を、私的諮問機関として置く場合の要綱は、国の指針に照らすと次のような感じになるだろう。

○○市大規模小売店舗立地懇談会に関する要綱
(開催)
第1条 市長は、大規模な小売店舗の立地に関し必要な検討を行うため、学識経験のある者の参集を求め、○○市大規模小売店舗立地懇談会(以下「懇談会」という。)を開催する。
(検討事項)
第2条 懇話会は、次の各号に掲げる事項に関する技術的又は専門的事項について検討する。
(各号略)
(構成)
第3条 懇話会は、学識経験のある者のうちから、市長が選任した委員12人以内をもって構成する。
2 懇話会に会長を置き、委員の互選により定める。
3 会長は、会務を総理する。
4 会長に事故があるときは、会長があらかじめ指名する委員がその職務を代理する。 
(開催期間)
第4条 懇話会は、平成○年○月○日からおおむね○年間開催する。
(庶務)
第5条 懇話会の庶務は、○○課において行う。
(委任)
第6条 この要綱に定めるもののほか、懇話会に関し必要な事項は、会長が委員の意見を聴いて定める。

若干コメントを加えると、まず名称についてだが、国の指針の2.(2)では「委員会」の名称も用いないこととされているが、自治体においては、「委員会」とするものもあるのではないかと思う。これは、例えば地方自治法第202条の3が「普通地方公共団体の執行機関の附属機関は、法律若しくはこれに基く政令又は条例の定めるところにより、その担任する事項について調停、審査、審議又は調査等を行う機関とする」と規定しているため、「審議会」とか「調査会」は適当ではないが、「委員会」ならいいだろうということなのであろうが、「委員会」も組織をイメージする用語であるため、避けた方が良いのであろう。
また、委員を選任するのに、「委嘱」という言葉を使うことがあり、国の「環境保全の意欲の増進及び環境教育の推進に関する基本方針の作成に向けた懇談会」(「私的諮問機関(上)」参照)の概要情報においても、使われている。 しかし、「委嘱」については、吉国一郎ほか『法令用語辞典(第八次改訂版)』によると次のように記載されている。

一定の事実行為又は事務をすべきことを他人に依頼することをいい、用語の本来の意味としては「委託」とほとんど同じで、法令上この意味に用いられた例もある……。しかし、法令上の用例としては、多くの場合、行政機関に置かれる審議会、調査会等の委員、幹事等を任命する場合に、当該行政機関以外の行政機関の職員、民間の学識経験者等から任命するものについて、本来その者との間に特別の権力関係がないので、「任命する」又は「命ずる」という用語を使う代わりに、多少敬意を表して用いられることが従来多かった……。もっとも、国家公務員法施行以来は、審議会の委員等も、原則として一般職の国家公務員であり、当該行政機関の職員を任命する場合の任命行為との間に法律上の差がないので、任命と委嘱とを区別せず、「任命」のみを用いることが通例となっていたが、審議会の委員等で民間から任命するものについては、再び「委嘱」という語を用いる例も出てきている。

したがって、「委嘱」という言葉本来の意味からすると、これを用いても問題ないのだろうが、自治体でも附属機関の委員を選任する場合に用いることもあるので、特別職の地方公務員であるかの誤解を生む可能性もあるであろう。

*1:実際には、規定の一部を省略するなど簡略化している。