罰則規定における他の規定の引用

罰則規定において他の規定を引用するときに、他の規定で引用する場合と異なった扱いをしているのか確認をしたことがある。例えば、ある規定違反について罰則を科そうとする場合において、その規定が2項からなる条であり、その全ての項の違反について同一の罰則を科そうとするときには、罰則規定では「第○条」と引用すればいいのか、「第○条第1項又は(若しくは)第2項」と引用しなければいけないのかということである。結果は、次のような例があることからすると、前者ということであり、特に他の規定で引用する場合と異なるところはないということなのであろう。

不正競争防止法
(外国の国旗等の商業上の使用禁止)
第16条 何人も、外国の国旗若しくは国の紋章その他の記章であって経済産業省令で定めるもの(以下「外国国旗等」という。)と同一若しくは類似のもの(以下「外国国旗等類似記章」という。)を商標として使用し、又は外国国旗等類似記章を商標として使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは外国国旗等類似記章を商標として使用して役務を提供してはならない。(ただし書略)
2 前項に規定するもののほか、何人も、商品の原産地を誤認させるような方法で、同項の経済産業省令で定める外国の国の紋章(以下「外国紋章」という。)を使用し、又は外国紋章を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは外国紋章を使用して役務を提供してはならない。(ただし書略)
3 何人も、外国の政府若しくは地方公共団体の監督用若しくは証明用の印章若しくは記号であって経済産業省令で定めるもの(以下「外国政府等記号」という。)と同一若しくは類似のもの(以下「外国政府等類似記号」という。)をその外国政府等記号が用いられている商品若しくは役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務の商標として使用し、又は外国政府等類似記号を当該商標として使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくは外国政府等類似記号を当該商標として使用して役務を提供してはならない。(ただし書略)
(罰則)
第21条 (略)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(1)〜(5) (略)
(6) 第16条、第17条又は第18条第1項の規定に違反した者
3〜7 (略)

ところで、なぜこのようなことを書いたかというと、たまたま労働基準法第14条の規定を取り上げていたブログを拝見したところ、この規定違反に対する罰則規定を見ると同条の引用の仕方がちょっと変わっていると思ったからである。その関係規定は次のようになっている。

労働基準法*1
(契約期間等)
第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。  
(各号略)
2 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。
3 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
第120条 次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
(1) 第14条、第15条第1項若しくは第3項、第18条第7項、第22条第1項から第3項まで、第23条から第27条まで、第32条の2第2項(第32条の4第4項及び第32条の5第3項において準用する場合を含む。)、第32条の5第2項、第33条第1項ただし書、第38条の2第3項(第38条の3第2項において準用する場合を含む。)、第57条から第59条まで、第64条、第68条、第89条、第90条第1項、第91条、第95条第1項若しくは第2項、第96条の2第1項、第105条(第100条第3項において準用する場合を含む。)又は第106条から第109条……の規定に違反した者
(2)〜(5) (略)

本来であれば、第120条第1号の「第14条」は、「第14条第1項」とすべきなのではないだろうか。ちなみに、第14条第2項及び第3項は、平成15年法律第104号で追加された規定だが、そのときの修正漏れなのかなとも思ったりもしたが、同法では、第70条で第14条を引用している部分は、「第14条第1項」と改めていることからすると、修正漏れとは考えにくい。
そこで、第120条第1号で引用している他の規定を見ていたら、第58条は次のような規定になっていた。

(未成年者の労働契約)
第58条 親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
2 親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。

第58条第2項違反に対して罰則を科するということはないだろう。
第120条の規定ぶりに合わせたということなのか。

*1:労働基準法には項番号がないが、便宜的に項番号があるものと同様の番号を付すことにする。