遡及適用(下)

遡及適用の代表例として、給与改定を遡って行う場合が挙げられるが、このように一般的に遡及適用は、過去に生じた権利義務関係を変更するものであるといえる。そして、前回(「遡及適用(上)」)取り上げた駐留軍用地特措法の一部改正における遡及適用も権利義務関係に関わるものである。
しかし、権利義務関係に関わるものではなく、単に法令の定めに反している事実を事後に追認するような例もある。例えば、次に掲げる例である。

法務省設置法の一部を改正する法律(昭和39年法律第182号)
   (略)
第13条の17の表中「45,311人」を「45,697人」に、「10,901人」を「10,992人」に、「1,815人」を「2,015人」に、「47,136人」を「47,722人」に改める。
  (略)
附 則
この法律は、別表4の改正規定を除き、公布の日から施行し、別表4の改正規定は、公布の日から起算して1年をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第13条の17の表の改正規定は、昭和39年4月1日から適用する。

この法律の改正対象である法務省設置法第13条の17は、法務省の組織の定員を定めている規定であり、昭和39年法律第182号は、昭和39年12月21日に公布されている。そうすると、同年4月1日から12月21日までの間は、法務省には法律に規定する定員よりも多い人数の職員がいたのであるが、その事実を追認したということであろう。
このような事例は、さすがに現在ではほとんど見かけないが、これを一般的に認めることができるのであれば、法令の条項ずれに伴う改正が、その法令の改正の施行までに間に合わなかったとしても、遡及適用してよいということにもなりそうな感じがする。
そして、一見するとそのような遡及適用をしたように見えるのが、次に掲げる平成20年政令第239号である。

高齢者の医療の確保に関する法律施行令等の一部を改正する政令(平成20年政令第239号)
高齢者の医療の確保に関する法律施行令の一部改正)
第1条 高齢者の医療の確保に関する法律施行令(平成19年政令第318号)の一部を次のように改正する。
    (略)
第7条第1項中「附則第35条の3第13項」を「附則第35条の3第11項」に改める。
   (略)
第18条第4項第1号中「附則第35条の3第13項」を「附則第35条の3第11項」に改める。
    (略)
国民健康保険法施行令の一部改正)
第2条 国民健康保険法施行令(昭和33年政令第362号)の一部を次のように改正する。 
第27条の2第1項中「附則第35条の3第13項」を「附則第35条の3第11項」に改める。
   (略)
附則第8条第3項中「附則第35条の3第13項」を「附則第35条の3第11項」に改める。
地方税法施行令の一部改正)
第3条 地方税法施行令(昭和25年政令第245号)の一部を次のように改正する。
   (略)
(健康保険法施行令及び船員保険法施行令の一部改正)
第4条 次に掲げる政令の規定中「附則第35条の3第13項」を「附則第35条の3第11項」に改める。 
(1) 健康保険法施行令(大正15年勅令第243号)第42条第2項第4号 
(2) 船員保険法施行令(昭和28年政令第240号)第10条第2項第4号
附 則
この政令は、公布の日から施行し、第1条の規定による改正後の高齢者の医療の確保に関する法律施行令第7条第1項及び第18条第4項第1号の規定、第2条の規定による改正後の国民健康保険法施行令第27条の2第1項及び附則第8条第3項の規定並びに第4条の規定による改正後の健康保険法施行令第42条第2項第4号及び船員保険法施行令第10条第2項第4号の規定は、平成20年4月1日から適用する。

この改正は、地方税法の規定の項ずれに伴うものであり、平成20年法律第21号によるものであるが、同法の施行日は平成20年4月1日とされているが、公布日は同月30日となっている。そして、この地方税法の改正は、一般に平成20年4月1日から遡及適用されるものと考えてよいと思う(2007年10月20日付け記事「施行日までに公布されなかった例規の施行日はどうなるか」参照)。そのように考えると、引用元の地方税法の改正が遡及適用されたため、この政令の改正に当たっても形式的に遡及適用したに過ぎないのではないかとも考えられると思うが、どうだろうか。