非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて・追記(上)

以前取り上げた(2009年1月30日付け記事「非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて」)非常勤の行政委員の報酬を月額制とすることを違法とする大津地裁平成21年1月22日判決(以下次回も併せて「大津地裁判決」という。)について、その全文を見ることができたので、ここで改めて取り上げることにしたい。*1
少し長くなるが、まず、大津地裁判決の内容について触れることにする。
非常勤の行政委員の報酬について規定する地方自治法第203条の2第2項(追加された当時は、第203条第2項)は、昭和31年法律第147号による地方自治法の一部改正により規定されたものであるが、その趣旨について大津地裁判決では次のように記載している。

地方公務員法の制定後、同法の適用を受ける一般職の職員については、その給与は、同法24条6項及び25条1項の規定により条例で定めるものとされたが、特別職の職員については、この規定が適用されず、また、昭和31年改正前の地方自治法の規定により、非常勤の職員に対しては報酬及び費用弁償の、常勤の職員に対しては給料及び旅費の支給を規定し、これらのものについてはその額及び支給方法を条例で定めることとしていたものの、これらの種類以外の給与その他の給付については、何ら規定がなかった。そこで、一般職の職員については、条例で規定しさえすれば、いかなる種類の給与をどれだけどのような方法で支給しても差し支えなく、また、特別職の職員については、条例の規定すらも必要とせず、単なる予算措置のみで極めて曖昧な給与が支給されていても、適当不適当の問題は別として何ら違法の問題は生じないとされていた。そのため、一般職及び特別職を通じて、地方公共団体ごとの給与体系は極めて区々となり、不明朗な給与の支給等が行われる例も決して少なくなかったことから、地方公共団体の職員に対する給与についても、国家公務員に対する給与の基本の体系と一致させる形で給与体系を整備し、給与の種類を法定し、ある程度の給与の統一性を保たせるとともに、国家公務員に準ずる給与を保障し、合わせて、給与はすべて法律又はこれに基づく条例にその根拠を置くことを要するものとして、その明朗化、公正化を図ったものである(大津地裁判決P26〜)。

要するに、国会公務員の給与体系に準じて規定を整備したということである。では、国家公務員に関する給与の規定を見ると、非常勤の職員に係るものについては、一般職の職員の給与に関する法律第22条が次のように規定している。

(非常勤職員の給与)
第22条 委員、顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者で、常勤を要しない職員(再任用短時間勤務職員を除く。次項において同じ。)については、勤務1日につき、3万5,300円(その額により難い特別の事情があるものとして人事院規則で定める場合にあつては、10万円)を超えない範囲内において、各庁の長が人事院の承認を得て手当を支給することができる。
2 前項に定める職員以外の常勤を要しない職員については、各庁の長は、常勤の職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内で、給与を支給する。
3 前2項の常勤を要しない職員には、他の法律に別段の定がない限り、これらの項に定める給与を除く外、他のいかなる給与も支給しない。

この規定の趣旨について、大津地裁判決は次のように述べている。

給与法22条が非常勤の職員について委員、顧問、参与等とこれら以外の非常勤の職員とに分けて規定した趣旨については、非常勤の職員には、委員、顧問、参与等のように本来の職業を有しながらその傍ら公務に参画する形の職員と、臨時的又はパートタイム的にせよ実質的に国に雇用される形のその他の非常勤の職員との2種類があり、その性格の違いに応じて、給与上の取扱いも自ずから異なったものとして考えていくのが適当であるとの考慮に出たものであるとされている。そして、同条1項の規定の趣旨については、非常勤の委員、顧問、参与等の場合は、いわばその学識、経験等を拝借するようなものであるというその職務及び勤務の特殊性に照らすと、それに対する報酬は、給与というよりは本質的にはむしろ謝金に近いものと考えるのが適当であり、その勤務時間を基礎に評価するというよりは、委員会等への出席1回(すなわち勤務1日)につきいくらという形での手当で処遇していくことが最も適当であると考えられることに基づくものであるとされている。他方、同条2項の規定の趣旨については、同条1項所定の職員以外の非常勤の職員の場合は、国と実質的な雇用関係にあるために、これらの職員の給与については、その提供する勤務にふさわしい処遇とすることが当然に要請され、殊に常勤の職員の処遇との均衡という面での配慮等が望まれるが、これらの非常勤の職員の雇用及び勤務の実態は区々であり、実際問題としてあらかじめ法律等により具体的な基準までを詳細に定め難い事情にあるので、法の規定としては「常勤の職員の給与との権衡を考慮し」という基本的基準を示すのみにとどめ、具体的な給与の決定は各庁の長の裁量に委ねることとしたものであるとされている(大津地裁判決P21〜)。

そして、自治体の非常勤の行政委員等の給与について、次のように述べる。

……非常勤の職員については、これに対する報酬は、生活給としての意味を全く有さず、純粋に勤務実績に対する反対給付としての性格のみを有することから、原則として、勤務日数に応じてこれを支給すべきものとし、ただ、非常勤の職員については、法が一般的な定義規定を置いておらず、それぞれの普通地方公共団体の実情として、勤務実態が常勤の職員と異ならず、月額あるいは年額で報酬を支給することが相当とされる職員がいるなど、特別な事情がある場合も想定されることから、そのような場合には、上記原則の例外として、条例で特別の定めをすることにより、勤務日数によらないで報酬を支給することを可能にしたものと解される。 
もっとも、この点を「委員会の委員」についてみると、法は、180条の5において、普通地方公共団体に置かなければならない委員会として、選挙管理委員会(1項2号)、労働委員会(2項2号)、収用委員会(2項3号)等を規定し、普通地方公共団体の委員会の委員又は委員は、法律に定があるものを除く外、非常勤とする(5項)と規定した上で、委員会の委員に対しては報酬(203条の2第1項……)を、委員会の常勤の委員に対しては給料及び旅費をそれぞれ支給しなければならない(204条1項……)とし、昭和27年改正により、委員会及び委員に関する基本規定を制定して以来一貫して、委員会の委員を非常勤のものと常勤のものとで明確に区別して規定している。そして、選挙管理委員会労働委員会、収用委員会の各委員については、法律に常勤とし、又は常勤とすることができる旨の規定はなく、これらの委員を政令又は条例等に基づいて常勤とすることはできないのであるから、これらの委員に対し、常勤の委員に対するのと同様な生活給的色彩を持つ給与を支給することは、法が予定するところではないといわざるを得ない。したがって、以上の諸点を考慮すると、法は、これらの委員に対しては、その業務の繁忙度等から、勤務実態が常勤の職員と異ならないといえる場合に限り、上記原則の例外として、条例で特別の定めをすることにより、勤務日数によらないで報酬を支給することを許しているにすぎないというべきである。 
以上に検討したとおり、普通地方公共団体は、法203条の2第1項所定の非常勤の職員に対しても、特別な事情がある場合には、同条2項本文の例外として、同項ただし書に基づき、条例で特別の定めをすることにより、勤務日数によらないで報酬を支給することができるが、本件で問題となっている選挙管理委員会労働委員会、収用委員会の各委員については、それらの委員が法律上明文の規定をもって非常勤とされている以上、上記のような例外的扱いは、その勤務実態が常勤の職員と異ならないといえる場合に限られるというべきである。そして、普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて、条例を制定することができるにとどまるから(法14条1項)、議会の制定した条例が、上記のような法203条の2第2項の趣旨に反するときには、当該条例は、法令に違反するものとして、その効力を有しないものといわなければならない。(大津地裁判決P29〜)

2009年1月30日付け記事「非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて」では、大津地裁判決をかなり批判しているが、改めてこの判決の全文を見るとなるほどと思う面もあり、やや思いつきで書いてしまった面もあるなと反省する点もある。したがって、この判決の考え方を是として、月額報酬を日額報酬に改めるという選択肢もあり得るのだろうという感じもしないでもない。
しかし、個人的には、基本的な部分については、なお納得がいかないことも事実である。この点については、次回に触れることとしたい。

*1:washitaさんの記事経由(http://d.hatena.ne.jp/washita/20090317)で、「市民オンブズマン事務局日誌」に掲載されているものによりました。