「市民協働の考え方・つくり方」

松下啓一先生から、その御著書『市民協働の考え方・つくり方』をいただきました。ありがとうございました。
本書は、「市民協働」について、定義、必要性、内容、そしてその仕組みづくりまで一通りのことが学べ、しかも非常に読みやすいものとなっています。
ここでは、個人的に強く考えさせられた条例事項に関することを中心に若干感想的なことを記しておきます。
本書では、協働に関する条例として、自治基本条例(同書P80〜)、市民協働条例(同書P82〜)のほか、パーセント条例(市民が支払った税金の数パーセントを自分で指定するNPO自治体)が行う事業に使うように指示・指定できる条例。同書P104〜)について記載されています。
ただ、これらの条例が、本来条例として定めなければいけないものであるかどうかは、いろいろ意見があるでしょうし、私自身は懐疑的に思っていました。なぜなら、条例で規定しなければいけない事項について、一般的な規定として地方自治法第14条第2項が「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」と定めており、この権利制限・義務賦課行為以外の事項については、特に法令に定めがない限りは条例で定める必要はないからです。
そして、実際に法律の場合は、権利制限・義務賦課行為に相当する法律事項があることが厳格に求められているのですが*1、法律には、「協働」という用語はほとんど用いられていません。つまり、権利制限・義務賦課行為と「協働」は、親和的なものとはいえないように思えるのです。
しかし、今や自治体の現場においては、少なからず市民との協働というものを意識しなければいけないことを考えると、権利制限・義務賦課行為以外の事項は、条例で規定すべきではないということも適当ではないのでしょう。つまり、条例で何を規定すべきかについての考え方が、法制度的にはともかく現実問題としては変化していることを認めた上で、条例の意義も併せて考え直さなければいけないということなのでしょう。
そのように条例に対する考え方も変えていかなければいけない中で、そうした新しい条例事項を考える際に、本書は入門書的なものとすることができるかと思います。
最後に、本書は、法制執務的な点についても有益なことがありますので、2点程取り上げておきます。
1点目は、協働を考える場合に「参加」という言葉がよいか、「参画」という言葉がよいかということについて、松下先生御自身は、「どちらでもいい派」であるとされていますが、「参画を採用すれば、参画を実践しなければいけない。以後は参加手続などと書いてはダメで、参画手続となる。参加者ではなくて参画者である」(同書P14)とされています。これは、例規における用語の使い方として心しておかなければいけないことでしょう。
2点目は、市民協働立法のあり方について書かれている次の記載についてです。

市民協働立法は、試みが始まったばかりであり、まだまだ課題も多い。特に問題なのは、市民の多くは条例づくりを条文づくりと誤解している点である。そのため、インターネットで関連条例を調査して、それを組み合わせて条文をつくるといった例も散見される。(同書P122)

私は、こうした考え方を持っているのは、住民に限ったことではないのではないかと感じているのですが、いずれにしろ、法制執務的にも、その例規で何を規定したいのかということを重視せずに、単なる文言を羅列するようなことは慎まなければいけないということを改めて感じさせていただくことができます。

*1:「法律事項」については、山本庸幸『実務立法演習』(P13〜)参照