準備行為

2009年7月31日付け記事「改正土壌汚染対策法に基づく事務の手数料」で取り上げた土壌汚染対策法の一部を改正する法律(平成21年法律第53号)附則第2条の準備行為の規定について、気になることがありますので、それを取り上げてみます。
まず、同法の準備行為に関する規定を掲げておく。

(準備行為)
第2条 この法律による改正後の土壌汚染対策法(以下「新法」という。)第22条第1項の許可を受けようとする者は、この法律の施行前においても、同条第2項の規定の例により、その申請を行うことができる。
2 前項の規定による申請に係る申請書又はこれに添付すべき書類に虚偽の記載をして提出した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同項の罰金刑を科する。

同様の規定振りをしている例としては、信託業法附則第9条などいくつか用例はある。しかし、この附則第2条第1項の規定は、法施行前に改正後の土壌汚染対策法第22条第1項の規定による汚染土壌処理業に関する許可を受けようとする者がその申請を行うことができる旨を規定するだけで、その申請を受けた行政庁が準備行為として何か行うことができるのかということについては、触れていない。したがって、その申請に基づく許可は、本則の規定に基づき行うことになるのであるが、そうすると、法施行前に当該申請があった場合、実務としては、審査は法施行前であっても行うことができるのであろうが、許可は法施行後に行うということになる。
このような運用は、当該申請の件数がどのくらいあるのかといったことにもよるが、実務に即したものとはいえないように感じる*1
さらに、許可を受けようとする者の申請に係る事項のみの規定に「準備行為」という見出しは、私にはあまり適当でないように感じてしまう。
これに対し、次のように、法施行前に許可まですることができる旨規定している例もある。ちなみに、見出しは普通に「経過措置」である。

動物の愛護及び管理に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成17年政令第390号)
附 則
(経過措置)
第2条 改正法による改正後の動物の愛護及び管理に関する法律(以下「新法」という。)第26条第1項の許可を受けようとする者は、施行日前においても、同条の規定の例により、その許可の申請をすることができる。
2 都道府県知事(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市にあっては、その長とする。)は、前項の規定により許可の申請があった場合には、施行日前においても、新法第26条及び第27条の規定の例により、その許可をすることができる。この場合において、これらの規定の例により許可を受けたときは、施行日において新法第26条第1項の規定により許可を受けたものとみなす。

このような規定であれば、法施行前に当該規定に基づく申請を受けたときは、法施行前に審査・許可を当然行うことができるということになる。実務を考えた場合、このような規定振りを準備行為の原則的な書き方と考えてもよいのではないかと思う。
もっとラフに書くのであれば、次のような書き方をする例もある(2007年3月3日付け記事「施行日前に一定の行為をすることができる旨の規定」参照)。

薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律(平成14年法律第96号)
附 則
(第2条の規定の施行前の準備)
第17条 新薬事法第2条第5項の高度管理医療機器、同条第6項の管理医療機器、同条第7項の一般医療機器若しくは同条第8項の特定保守管理医療機器の指定又は新薬事法第41条第3項の基準の設定については、厚生労働大臣は、第2条の規定の施行前においても薬事・食品衛生審議会の意見を聴くことができる。
2 新薬事法第13条の3第1項の認定、新薬事法第23条の2第1項の登録及び新薬事法第39条第1項の許可の手続は、第2条の規定の施行前においても行うことができる。

許可事務については、第2項で、法第39条第1項の高度管理医療機器等の販売業及び賃貸業の許可事務について規定している。
このような規定だと、法施行前の期日に許可を行った場合、上記の「動物の愛護及び管理に関する法律施行令」と異なり、その期日に許可を受けたことになるのであろう。この点が理論的にどうかとも思うのだが、このような規定振りもありだろう。
さらに、登録の例であるが、次のような書き方をしている例もある。

児童福祉法の一部を改正する法律(平成13年法律第135号)   
附 則
(実施のための準備)
第2条 この法律による改正後の児童福祉法(以下「新法」という。)の円滑な実施を確保するため、都道府県知事は、新法第18条の9第1項に規定する指定試験機関及び新法第18条の18に規定する登録に関する事務に関し必要な準備を行うものとする。

改正後の法第18条の18は、保育士となるには登録を受けなければいけないという規定である。この規定によると、登録事務を実施するに当たり、知事が何らかの準備行為を行うことは可能であるが、登録を受けるための申請までこの規定を根拠としてできるのかは、甚だ疑問である。
したがって、これは、準備行為の規定としてはやや不適切な例なのではないだろうか。

*1:ただし、政令で必要な経過規定を置くことができるので、政令のレベルで所要の規定を置くことは考えられる。