職員基本条例案(上)

10月5日、大阪府議会に議員提出された条例案のうち、職員基本条例案(以下このシリーズで「条例案」という。)について、3回にわたって取り上げる。
なお、tihoujitiさん経由で、9月16日に行われた大阪維新の会と府執行部との意見交換に関する資料を目にしたが、記事を書いた後だったため、基本的にはその資料を踏まえたものとはなっていない。ただ、執行部の意見の中でもどうかと思う点もあるので、その辺りは、3回目に取り上げることとしたい。
今回は、条例案地方公務員法の精神に則ったものであると言っていながら、実際にはそのとおりになっていないことを取り上げる。
条例案の前文に、次のような記載がある。

この条例は、地方公務員法第5条において、「この法律に定める根本基準に従い、条例で」、法律の精神に反しない範囲で、「職員に関する事項について必要な規定を定めるものとする」とされ、さらに第6条において、地方公共団体の長その他の任命権者は、法律だけでなく、条例に従って、人事権を行使すると定められているのであって、かかる法律の趣旨に基づき、大阪府を意欲あふれる公務員が地域の「民」のため全力を尽くす、優れた行政機関にすることを目的とする。

繰り返しになるが、この前文のとおり、条例案地方公務員法の精神に則って作られていればよいのだが、言葉とは裏腹に条例案はこの精神を無視しているとしか思えない。
地方公務員法は、人事機関として、任命権者と人事委員会又は公平委員会とを定めている。任命権者が分立していることについては、自治体の行政体制が権限を広く分配することによって相互の牽制と均衡を図り、権限の集中がもたらす独断専行を抑制しようとしていることに対応するものであるとされている(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P90〜)参照)。そして、人事委員会又は公平委員会を置き、中立的かつ専門的な人事機関として任命権者の任命権の行使をチェックすることとしている(前掲書(P101)参照)。
しかし条例案は、こうした地方公務員法が定めている人事機関の規定に関する精神を無視し、ことさら自治体の長に権限を集めているように見えるのである。
例えば、条例案の第5条は、次のような規定になっている。

(採用)
第5条 職員の採用は、次に掲げる各号による。 
(1) 準特別職員 広く公募による中途採用、または再任による 
(2) 現業職員 新規及び中途採用による 
(3) 一般職員 新規及び中途採用並びに交流人事による
2 準特別職員を任用するときは、一般職の任期付職員の採用等に関する条例(平成14年大阪府条例第86号)に定める選考により任期を定めて行う。ただし、再任を妨げない。
3 府の職員は、職員としての地位を失うことなく前項に規定する選考に応募することができる。
4 準特別職員には、年齢、職歴等を問わず、マネジメント能力(組織を通じて運営方針を有効に実施させる能力)の高さを基準として、府の職員も含めた意欲ある多様な人材を積極的に登用しなければならない。
5 第2項の選考に当たっては、知事が指名した外部有識者による面接を実施し、その結果を尊重しなければならない。
6 職員の採用に関して必要な事項は、規則で定める。

この規定を見ると、第5項で、任期付職員の選考を行うときには、知事が指名した外部有識者による面接を実施することになっている。これは、知事以外の任命権者であっても知事が指名した者の面接を受けるということであるから、任命権者を分立した地方公務員法の精神に反しているといえる。
また、第6項で、採用に関し必要な事項は規則で定めることとしている。これは知事規則であろうから、都道府県の場合、選考等の職員の採用のための事務は人事委員会の権限になっていることからすると(地方公務員法第8条第1項第6号)、任命権者とは別に中立的かつ専門的な人事機関である人事委員会を置くこととした地方公務員法に違反するということになろう。