条例による法令の上書き(中)

国会における東日本大震災復興特別区域法案の審議において、条例による法令の上書きに関する内閣法制局の見解が表れている部分を次に引用する。

<第179回国会衆議院東日本大震災復興特別委員会(平成23年11月24日)>
○秋葉委員 ……さて、法案の中にもう少し踏み込んでお伺いをしたいと思うわけでございます。
今回の復興特区法案は、さきに成立をいたしました総合特区制度と似ている面がございます。総合特区制度の場合には申請主義でやっていたものを、そうじゃなくて今回は全体的に投網をかけてやるんだということが大きな違いだと思うわけでありますが、実は、総合特区制度を議論するときも、これからの地方分権改革に向けて、もう少し地方自治体の裁量をふやすべきじゃないかということを随分議論させていただきました。
今回の法案では、第36条で、規制の特例措置の一つとして、東日本大震災復興特区法施行令または施行規則で定めるところにより、政令または主務省令で規定された規制のうち地方公共団体の事務に係るものについて、条例での特例措置を可能とする規定が設けられております。つまり、政令や省令については条例で上書き権を認めたわけでございます。これはいわゆる総合特区制度と同じなんですね。
今回、今いろいろと修正協議も行われている最中ではありますけれども、私は、今回のこの震災というものをやはり地方分権改革にもつなげていく努力が必要ではないかと思うんです。もちろん、政令、省令に限らず、場合によっては、即応性を担保する観点から法律の上書き権ということにも踏み込んで認めるべきではなかったのかな、私はこう思うわけでありますけれども、法律の範囲内での条例の制定権だということで、政府側の正式なコメントが答弁として繰り返されているわけであります。
きょうは法制局の長官にもおいでいただいております。内閣法制局の長官に、改めて、この法案でいわゆる法律に対する上書き権というものにまで踏み込んだ場合に、可能な素地というのはないのかどうか、政府の見解をただしておきたいと思います。
○梶田政府参考人内閣法制局長官 お答えいたします。
お尋ねの条例のいわゆる上書きの問題につきましては、その具体的な内容につきまして明らかではございません。
この点につきまして、国会の答弁におきまして、担当の大臣から、いわゆる条例による法律の上書きにつきましては、唯一の立法機関である国会に対して地方公共団体立法権限の一部の移譲を求めるものであり、政府提案として国会に提出することは控えるべきとの考え方に基づいて、今回の復興特区法案には盛り込まなかった旨の答弁がなされておるところと承知しております。
それで、私の方からは条例と法律の関係につきまして一般論として申し上げたいと思いますが、いわゆる条例による法律の上書きを可能にするということにつきましては、国会を国の唯一の立法機関であるというふうに規定しております憲法第41条の規定、それから、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるということを規定しております憲法第94条の規定との関係で議論すべき問題点があるというふうに承知しておるところでございます。
○秋葉委員 今回、後で触れますけれども、復興交付金なんかについては5省庁40事業を対象に基幹事業が盛り込まれているわけですが、例えば、この5省庁40事業に関連するような法律、これに制限列挙して法律の上書き権を認めるということで、対象を絞った場合にはどうですか、長官。もう一回伺っておきたい。
○梶田政府参考人 今、具体的な内容につきまして私ども承知しておるところではございませんので、一般論としてあくまで申し上げたいと思います。
憲法41条を先ほど申し上げました。これは、国会は国の唯一の立法機関であるというふうに定めておりまして、従来から、この憲法の趣旨を否定する、いわば国会の立法権を没却するような抽象的、包括的な規定により条例の定めにゆだねるということは問題があるというふうに考えてきているところでございます。
それで、条例による法律の上書きというものの具体的な内容をどうするかということでございますが、実は、条例による法律の特例の定めにつきましては、これまでも、個別の法律におきまして、その法律の趣旨、目的を踏まえまして、地域の特性に応じて条例で特段の定めを設けることを許容する、個別具体的に定めるという対応、これは立法例としてもございます。そういう対応をしてきております。こうした対応によるのであれば、憲法上の問題は生じないというふうに考えております。

一般に、内閣法制局は条例による法律の上書きは否定していると言われている。しかし、上記のとおり、個別の法律で具体的に定めた場合は問題なく、これまでもそのような例はあるとしている。例えば、公害法制における上乗せ、横出しなどをその例として挙げることができる。
そのような事例と比較して、東日本大震災復興特別区域法は、条例が法律に対する特例としてどのような役割を果たすのかについて法文上は明確になっておらず、格別取り上げるほどのものではないように思われる。