いわゆる私的諮問機関に関する判例について(4)

4 平成23年3月23日横浜地裁判決(平成21年(行ウ)第71号)及び平成23年 9月15日東京高裁判決(平成23年(行コ)第143号)
 (1) 対象
一般廃棄物処理施設をPFI法の趣旨に基づいたDBO(公設民営)方式で建設することを計画し、その事業者の選定に当たって、客観的評価についての公平かつ適正な実施を担保するため、神奈川県平塚市が設置した「(仮称)次期環境事業センター整備・運営事業者選定委員会」
 (2) 活動内容
本件委員会の具体的な活動内容は、公募型プロポーザル方式での公募説明書や落札決定基準の決定、応募のあった民間事業者からの技術・価格提案の審査、DBO方式での民間事業者の選定であった。
本件委員会は、平成20年9月29日から平成21年11月13日にかけて5回の会議を行い、同日、委員長名で、平塚市長に対し、「(仮称)次期環境事業センター整備・運営事業者選定の審査結果」を提出し、優先交渉権者等を選定したことを報告した。
平塚市は、同年12月18日、本件委員会の上記審査結果を受け、同委員会が優先交渉権者に選定した事業者を本件事業の民間事業者に選定し、PFI法8条に基づき、客観的な評価の結果として本件委員会作成の審査講評を公表した後、平成22年3月31日、同委員会が選定した業者と工事請負仮契約を締結し、同年5月17日には、本契約を締結した。
 (3) 市の主張(原文)
本件委員会は、平塚市が、現在建設が試みられている本件施設を「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」に基づいて建設することを決定し、これを実行する事業者の選定を行うために設けられたものである。このように、本件委員会は、既に決定された行政方策に基づいて、契約先の選定という極めて技術的な部門に関して、平塚市副市長及び同施設の共同利用が予定されている大磯町副町長などの行政関係者を含めて専門的知識をもち寄るという臨時的なものであり、直接に行政執行に関わる業務を対象としているということはできない。しかも、その活動内容は、公募に応じた者の中から事業者を選定するという限定された事項にとどまるのであるから、「執行機関の附属機関」には該当しないというべきである。
 (4) 裁判所の判断(原文)
  ア 法138条の4第3項は、普通地方公共団体が法律又は条例によって執行機関の附属機関を設置することができる旨を規定している。ここにいう附属機関とは、執行機関が行政の執行権を有するのに対し、執行機関の行政執行のため、あるいは行政執行に必要な調停、審査、諮問又は調査を行うことを職務とする機関をいうところ、同項の文言に照らすと、附属機関を法律又は条例によらず、要綱等により設置することを禁ずる趣旨をも含むものと解される。
  イ そこで、本件委員会が附属機関に当たるかどうかについて検討するに、本件委員会は、事務局が平塚市資源循環課に置かれ、6人の委員には、平塚市副市長や大磯町副町長が含まれているほか、市職員以外の有識者4名が含まれている。また、本件委員会の所掌事項は、平塚市が民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設(PFI法1条参照)の整備を図るべく、公設民営で行う新しい環境事業センターを設置するに当たり、その事業を実施する主体となる民間事業者を選定し、当該選定結果を市長に提言することであるから、特定の事項について判定ないし結論を導き出すために、その内容を深く調べる審査、あるいは特定の事項について意見や見解を求める諮問のいずれにも当たり得るものである。しかも、平塚市廃棄物の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例3条によれば、廃棄物の減量化、資源化及び廃棄物の適正な処理を推進するために必要な措置を講ずるための施策を実施するに当たって、計画の策定、施設の整備、市民及び事業者の協力体制の確立等の必要な措置を講ずることは平塚市の責務であり……、このような市の業務である環境事業の実施主体となる民間事業者を選定することは、重要な行政事務の一つといい得るものであって、単に技術的な事項にとどまるとみるべきものではない。しかも、本件委員会にあっては、複数回にわたる会議を重ねて民間事業者の選定作業を行い、この検討結果を事業者選定結果としてまとめて被告に提出し、被告はこれに沿って事業者を選定している。また、その活動期間は、1年以上にわたっているのであって、このことからすれば、特定の事業に活動が限定され、そのために新たに設立された機関であるとはいえ、必ずしも臨時的なものといい得るものではない。
以上を総合すると、本件委員会は、法138条の4第3項所定の審査又は諮問を行う附属機関に該当するものといわざるを得ない。
 (5) 判例に対する見解
市は、本件委員会が附属機関に当たらない理由として、臨時的なものであり、その業務内容も直接に行政執行に関わる業務を対象としていないこと、公募に応じた者の中から事業者を選定するという限定された事項にとどまるということを主張している。
これに対し、裁判所は、臨時的なものであるかどうかについては、活動期間が1年以上であることから否定し、業務内容については、限定的なものであることは認めているが、行政執行に関わる業務を対象としていないということについては否定し、これらの事情を総合的に判断して本件委員会を附属機関に当たると判断しているのであるが、その理由はよく分からないものになっている。
まず、この総合的に判断するという意図がよく分からない。
さらに、裁判所は、(4)アで附属機関の職務について「審査」と「諮問」を挙げ、本件委員会について「特定の事項について判定ないし結論を導き出すために、その内容を深く調べる審査、あるいは特定の事項について意見や見解を求める諮問のいずれにも当たり得る」としているが、、諮問を行うのは市長であり、本事案の場合、本件委員会は市長の諮問を受けて特定事項の「審議」をしたことを認定すればよいのである。しかし、市長が諮問をした事実は認定しておらず、したがって、市長に提言を行った事実を認定しても、附属機関であることの理由にはなり得ないのである。
このような裁判所の判断を見ると、結論としては異論はないのだが、その理由は説得力を感じないものとなっている。