内閣法制局と議院法制局

議院法制局は、内閣法制局よりも技術的に劣っているというのが、一般的な認識であろう。例えば、元通商産業省の官僚で、衆議院議員江田憲司氏は、高橋洋一氏との共著である『霞が関の逆襲』(P94)において、次のように記載している。

法律案の作成や審査をする機関は2つあります。内閣法制局と議院法制局です。
内閣法制局は、政府が提出する法案に関して、問題がないかどうかを、その閣議決定の前に審査するのですが、各省庁から持ち込まれる、かなり精度の高い案を審査するだけで、自分では法案を作成しません。
議員法制局は、各議員から持ち込まれた議員立法のアイデアや素案を、法案の形にまとめるところまで行う機関です。しかし、その出来は決して素晴らしいものとはいえず、また、ときには間違いもある。
だから霞が関では、「議員立法は前例とせず」という極めて不遜な原則もあるのです。議員立法が法律となっても、そこで採用された考え方や条文の書き方等は、政府の「閣法」(内閣提出法案)の前例としない。つまり、議員立法はいい加減な法律で間違いも多く、官僚が書く法案にはとても参考にできない、そういう認識が霞が関にはあるのです。

また、松尾浩也ほか『立法の平易化』(P31)において、元内閣法制局長官の津野修氏が、内閣法制局と議院法制局とは相当力量差があるのかという問いに対し、次のように答えている。

いえいえ、そんなことはないです。役割が違うものですから。要するに、私たちは各省が書いてきたものを審査して精密にするわけですが、議員法制局の場合は全部自分で作らないといけないのです。自分で調べてやらないといけないものですから、もっと大変だと思うのです。各省庁の分と審査の分と両方やらないといけないという意味で、議員法制局はそれは容易ではない部分があると思います。そういう意味ではしんどい仕事だろうとお見受けします。

否定はしているものの、暗に、議員法制局の方がやることが多いから、議員立法の方が技術的に甘くなっても仕方がないと言っているようにも聞こえる。
ところで、自治体の例規審査は、どちらに近いだろうか。もちろん、原案は、原課が作成するため、議員法制局ほどの役割はない。しかし、いざ条文を書く段になれば、審査だけしていればいいとはいえず、審査部門が条文化している面も多かれ少なかれあるであろう。どちらに近いかは、それぞれの自治体の状況如何ということになるだろうが、確かに内閣法制局寄りの自治体の方が、いい例規ができるのは間違いない。