例規の立案で間違いやすい例(38)

水質汚濁防止法施行規則等の一部を改正する省令(平成27年環境省令第33号)
(排水基準を定める省令の一部改正)
第2条 排水基準を定める省令(昭和46年総理府令第35号)の一部を次のように改正する。
別表第1のトリクロロエチレンの項中「0.3ミリグラム」を「0.1ミリグラム」に改める。
附 則
(経過措置)
第2条 この省令の施行の際現に設置されている水質汚濁防止法(以下「法」という。)第2条第2項の特定施設(設置の工事がなされている施設を含む。)を設置する工場又は事業場から法第2条第1項に規定する公共用水域に排出される水のトリクロロエチレンについての排水基準(法第3条第1項に規定する排水基準をいう。)は、この省令の施行の日から6月間(当該施設が水質汚濁防止法施行令(昭和46年政令第188号)別表第3に掲げる施設である場合にあっては、1年間)は、この省令による改正後の排水基準を定める省令第1条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
第3条 この省令の施行前にした行為及び前条においてなお従前の例によることとされる場合におけるこの省令の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

水質汚濁防止法は、排出基準に適合しない排出水の排出を禁止しているが(第12条第1項)、この排水基準を同法に基づき定めているのが「排水基準を定める省令」である。排水基準に違反する者は、改善命令の対象となり(第13条第1項)、命令に違反した者は罰則の対象となるほか(第30条)、当該排出をした行為に対し直罰の規定もある(第31条第1項第1号)。
平成27年環境省令第33号の第2条は、トリクロロエチレンの排出基準を厳しくするものであるが、これに関して附則第2条及び第3条に経過規定が置かれている。
附則第2条は、既存の特定施設について新基準の適用を一定期間猶予するものであり、特段問題はない。
おかしいのは、附則第3条である。この規定は、罰則に関する経過規定の典型的なものである。水質汚濁防止法第27条の規定により、省令で罰則に関する規定を定めることも委任されているので、そのこと自体は問題ないのだが、罰則に関する経過規定は、罰則の規定の改廃により、行為者が処罰されなくなったり、他の行為者より軽く処罰されたりすることになると、同じ行為によって処罰された者との均衡を失することなどを防ぐため設けられるものである(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』P326参照)。したがって、上記の省令改正は、基準を厳しくするものであり、改正前に処罰対象であった行為は、改正後も引き続き処罰対象になるのであるから、附則第3条は不要の規定であろう。