法律の制定を受けて条例を改正する場合の留意事項〜空家等特措法の場合

北村喜宣ほか『空き家対策の実務』は、いわゆる空家等特措法の解説の外、法の制定を受けて、既存の空家対策に係る条例をどのように改正すべきかといった点についても触れており、法制執務的に興味深い記述が多い。今後、そうした事項を幾つか取り上げていきたいと思うが、今回は、法律の制定を受けて改正した京都市条例の目的規定について取り上げる。
京都市条例の目的規定の改正に係る新旧対照表は、次のとおりである。

改正前改正後
(目的)
第1条 この条例は、空き家の増加が防災上、防犯上又は生活環境若しくは景観の保全上多くの問題を生じさせ、さらには地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっていることに鑑み、空き家の発生の予防、活用及び適正な管理並びに跡地の活用(以下「空き家等の活用等」という。)に関し必要な事項を定めることにより、空き家の活用等を総合的に推進し、もって安心かつ安全な生活環境の確保、地域コミュニティの活性化、まちづくりの活動の促進及び地域の良好な景観の保全に寄与することを目的とする。
(目的)
第1条 この条例は、空き家等の増加が防災上、防犯上又は生活環境若しくは景観の保全上多くの問題を生じさせ、さらには地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっていることに鑑み、空き家等の発生の予防、活用及び適正な管理並びに跡地の活用(以下「空き家等の活用等」という。)並びに空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「法」という。)の施行に関し必要な事項を定めることにより、空き家等の活用等を総合的に推進し、もって安心かつ安全な生活環境の確保、地域コミュニティの活性化、まちづくりの活動の促進及び地域の良好な景観の保全に寄与することを目的とする。
この条例は、法律の制定を受けて、自主条例と法施行条例の両方の意味合いを持つものとなったのだが、空家等特措法は、防犯目的を含んでいないし、地域コミュニティの活性化も相手にしていないので、これらを条例制定の背景とすることは厳密に言うと適切でないことになる。さらに、そもそも法施行条例において、「……に鑑み、……空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「法」という。)の施行に関し必要な事項を定めることにより……」とするのは違和感がある。
また、法律の規定と整合を図るため、「空き家」を「空き家等」に改正しているが、その「空き家等」には、空き家の敷地を含んでいるため、そもそも敷地と地域コミュニティの活力云々は関係がないため、「空き家等の増加が……地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっている……」とするのも今一つしっくりこない。
これらを解決するためには、原案を活かすのであれば、まず次のようにすることが思い付く。

この条例は、空き家の増加が防災上、防犯上又は生活環境若しくは景観の保全上多くの問題を生じさせ、さらには地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっていることに鑑み、空き家の発生の予防、活用及び適正な管理並びに跡地の活用(以下「空き家等の活用等」という。)に関し必要な事項を定めるとともに、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「法」という。)の施行に関し必要な事項を定めることにより、空き家等の活用等を総合的に推進し、もって安心かつ安全な生活環境の確保、地域コミュニティの活性化、まちづくりの活動の促進及び地域の良好な景観の保全に寄与することを目的とする。

つまり、「……鑑み、……定めるとともに……」で文章を一旦切ってしまおうとする発想である。
しかし、このようにしても「空き家等の発生の予防、活用及び適正な管理並びに跡地の活用」と「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行」は並列ではなく、後者は前者に含まれるので、いまいちということになる。
これを解決するには、例えば次のようにすることが考えられる。

この条例は、空き家の増加が防災上、防犯上又は生活環境若しくは景観の保全上多くの問題を生じさせ、さらには地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっているため、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「法」という。)の適切な執行その他の措置を講ずる必要があることに鑑み、法の施行その他の空き家の発生の予防、活用及び適正な管理並びに跡地の活用(以下「空き家等の活用等」という。)に関し必要な事項を定めることにより、空き家等の活用等を総合的に推進し、もって安心かつ安全な生活環境の確保、地域コミュニティの活性化、まちづくりの活動の促進及び地域の良好な景観の保全に寄与することを目的とする。

ところで、以前私は、自主条例と法施行条例の両方の意味合いを持つ条例の審査を行ったときの目的規定を、「この条例は、○○法の規定に基づき○○に関し必要な事項を定めるとともに、……を定めることにより、……を図り、もって……を目的とする」といった構文にしたことがある。
そうした構文にすればすっきりすると思うが、そこまで改正するという判断はなかなかしずらいだろう。