東京都子どもを受動喫煙から守る条例

東京都において、議員提出の条例案として10月5日に可決された「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」は、執行部が検討している受動喫煙措置の理念条例的な意味合いものなのだろう*1
以下、この条例を見て感じたことを記すこととする。

(目的)
第1条 この条例は、子どもの生命及び健康を受動喫煙の悪影響から保護するための措置を講ずることにより、子どもの心身の健やかな成長に寄与するとともに、現在及び将来の都民の健康で快適な生活の維持を図ることを目的とする。

「……保護するための措置」とあるが、この条例は、たばこを吸う者に一定の努力義務を課すことが中心であり、「措置」というほどの内容はないように思う。
また、条例の内容が子どもの受動喫煙を防止することなのだから、「現在及び将来の都民の健康で快適な生活の維持を図る」ことを目的とするのは、広げすぎである。

(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)〜(3) (略)
(4) 子ども 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)第2条に規定する児童をいう。
(5) 保護者 児童虐待防止法第2条に規定する保護者をいう。
(6) 家庭等 子どもが住所又は居所として継続的に居住する場所をいう。
(7)〜(9) (略)

第4号の「子ども」及び第5号の「保護者」の定義について「児童虐待の防止等に関する法律」のそれを引用している。同法の引用は、やや違和感があるところだが、この2つの用語を定義している法律がたまたま同法だったからといったところだろうか。しかし、同法の児童の定義は「18歳に満たない者」であり、「保護者」の定義は「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するもの」としているので、単純にそのように記載すれば足りるだろう*2
さらに、子どもの受動喫煙防止という観点からすると、「子ども」の定義を18歳未満とするのが適切なのだろうか。親族の喫煙を防ぐということから考えると、高校を卒業するまで、すなわち「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者」とした方が適切ではないかという感じもする。
また、「家庭等」との定義を「子どもが住所又は居所として継続的に居住する場所」としているが、「子どもが居住する場所」と書けば「住所又は居所として」は書く必要がないと思う。「家庭」というニュアンスを出すのであれば、「子どもが生活の本拠としている住居」*3といった表記でもいいと思う。

(家庭等における受動喫煙防止等)
第6条 保護者は、家庭等において、子どもの受動喫煙防止に努めなければならない。
2 喫煙をしようとする者は、家庭等において、子どもと同室の空間で喫煙をしないよう努めなければならない。
(家庭等の外における受動喫煙防止)
第7条 保護者は、家庭等の外においても、受動喫煙を防止する措置が講じられていない施設又は喫煙専用室その他の喫煙の用に供する場所に、子どもを立ち入らせないよう努めなければならない。
(自動車内における喫煙制限)
第8条 喫煙をしようとする者は、子どもが同乗している自動車(道路交通法昭和35年法律第105号)第2条第1項第9号に規定する自動車をいう。)内において、喫煙をしないよう努めなければならない。
(公園等における受動喫煙防止)
第9条 喫煙をしようとする者は、公園(都市公園法(昭和31年法律第79号)第2条第1項第1号及び自然公園法(昭和32年法律第161号)第2条第1号から第4号までに規定するものをいう。)、児童遊園(児童福祉法第40条に規定するものをいう。)又は広場等において、子どもの受動喫煙防止に努めなければならない。
(学校等周辺の受動喫煙防止)
第10条 喫煙をしようとする者は、学校、児童福祉施設その他これらに準ずるものの周辺の路上において、子どもの受動喫煙防止に努めなければならない。
(小児医療施設周辺の受動喫煙防止)
第11条 喫煙をしようとする者は、小児科又は小児歯科の病院又は診療所その他これらに準ずるものの敷地の外周から7メートル以内の路上において、子どもの受動喫煙防止に努めなければならない。

上記の規定が受動喫煙防止に関する一連の規定となっている。その中で「喫煙をしないように努めること」と「(子どもの)受動喫煙防止」という用語が使い分けされているが、「(子どもの)受動喫煙防止」という用語が定義されていないので、違いがよく分からない。特に、第9条以下では、子どもの近くで喫煙しないといったようなことを求めているように感じるので、特にその違いがよく分からないし、第6条第1項は、例えば分煙措置等を求めているように感じるが、そうすると同一の用語を条によって違う意味で用いているという面での不適切さもあることになる。
個別の条文ごとでは、第6条について、まず第1項と第2項の関係であるが、第2項の「喫煙をしようとする者」には、保護者も含まれるのだろうが、特定の者に一定の行為を求めるのだから、保護者とそれ以外の者という形で分けて記載した方が適当だろう。そして、第1項は、単に「子ども」とするのでなく、「その監護する子ども」とすべきである。また、第2項の「喫煙をしようとする者は、……喫煙をしないよう努めなければならない」という表現は、以降の規定にも見られるが、稚拙な表現である。
次に第7条だが、「家庭等の外においても」の「も」が気になるところである。この文章であれば第6条第1項とセットにした方がいいだろうし、そうでないなら、「保護者は、家庭等の外における受動喫煙…」といったようにした方が適当だろう。
ざっと見てみた感想は以上のとおりだが、この条例は、保護者等が行う子どもの受動喫煙を防止するための行為について全て努力義務としており、家庭内における私的事項に行政がどこまで踏み込めるかという問題はとりあえず回避できたが、反面、条例としてはいかがという感じになっていることは否めない。

*1:条例の附則第2項は、「都は、この条例の施行の日から起算して1年後に、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」としている。

*2:ただし、条例では「子ども」としているので、「保護者」の定義は「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護するもの」となるだろうし、そうすると、そもそも児童虐待防止法第2条を引用することは適切でないことになる。

*3:例えば、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」第10条第1項第1号参照