NHKの受信料制度に関する最高裁判決

6日、最高裁は、NHKの受信料制度について合憲との判決を行ったが、その判事事項は、次のとおりである。

  1. 放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり、日本放送協会からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、その者に対して承諾の意思表示を命ずる判決の確定によって受信契約が成立する。
  2. 放送法64条1項は、同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反しない。
  3. 受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。
  4. 受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は、受信契約成立時から進行する。

本件に関する報道に接した際、私は、被告がNHKの受信料制度を違憲と主張する理屈がどのようなものなのか想像できなかったのだが、その主張は、「受信契約の締結を強制する放送法64条1項は、契約の自由、知る権利及び財産権等を侵害し、憲法13条、21条、29条に違反する」とし、その理由として次の2点を挙げている。

  1. 受信設備を設置することが必ずしも原告の放送を受信することにはならないにもかかわらず、受信設備設置者が原告に対し必ず受信料を支払わなければならないとするのは不当であり、また、金銭的な負担なく受信することのできる民間放送を視聴する自由に対する制約にもなっている。
  2. 受信料の支払義務を生じさせる受信契約の締結を強制し、かつ、その契約の内容は法定されておらず、原告が策定する放送受信規約によって定まる点で、契約自由の原則に反する。

この主張からすると、被告が受信料を徴収することが憲法違反とする理由は、NHKの受信料を払うことを良しとしない者は、テレビを持たないことになるから、それが民間放送を視聴する自由を制約することになり、憲法で保障されている知る権利を害するという論理なのだろう。
しかし、この程度の主張で憲法違反との判決を得るのは所詮無理筋であり、そうすると、契約自由の原則に反すると言ってみても、法律レベルの話だろうから、被告が勝訴することはそもそも難しかったのではないだろうか。
ただし、最高裁の論理は、私にはしっくりするものではない。判決では、NHKの受信料制度は、昭和25年に放送法が施行されて以来、長年行われてきたものであるから、適当な制度なのだといった趣旨のことを述べている部分がある。
例えば「放送は、憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で、国民の知る権利を実質的に充足し、健全な民主主義の発達に寄与するものとして、国民に広く普及されるべきものである」としてNHKの役割を評価し、現行の受信料制度について「放送法施行後長期間にわたり、原告が、任意に締結された受信契約に基づいて受信料を収受することによって存立し、同法の目的の達成のための業務を遂行してきたことからも、相当な方法であるといえる」としている。
さらに、「放送法による二本立て体制の下での公共放送を担う原告の財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的には、原告が、受信設備設置者に対し、同法に定められた原告の目的、業務内容等を説明するなどして、受信契約の締結に理解が得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。そして、現に、前記のとおり、同法施行後長期間にわたり、原告は、受信設備設置者から受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきたところ、それらの受信契約が双方の意思表示の合致により成立したものであることは明らかである」と述べる部分がある。
しかし、放送法が施行された昭和25年当時と現在では、国民の知る権利という観点でNHK、ひいてはテレビが果たす重要性は大きく変化しているだろうから、そうした変化を考慮せずに漫然と何十年も同一の制度としていることを正当化することには無理があるように感じる。
さらに、これまで受信設備設置者の理解の下、受信契約締結の承諾を得て受信料を収受してきたことを評価するのであれば、NHKは、これまでと同様に裁判など行わず、真摯に受信設備設置者の理解を得て受信料を徴収すべきということになるのではないだろうか。
この判決に対しネットでは多くの批判があるようであるが、NHKの受信料制度の適否は、私は法律論ではなく、政策論のように感じているので、裁判所の判断としては、やむを得ないものであったと思う。むしろ国会においてNHKの必要性を議論すべき時代になっているのではないだろうか。