法律の規定の活用を条例で規定することについて

岡田博史『自治コンプライアンスの基礎』(P109〜)*1によると、滋賀県野洲市では、行政手続法第36条の3の規定において、何人も、法令に違反する事実の是正のためにされる処分又は行政指導(根拠規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、申出書を提出して、当該処分又は行政指導を求めることができるとされていることから、この規定を活用する仕組みを「野洲市くらし支えあい条例」に定めているとのことである。それは、次の同条例第22条の規定である。

(処分等の求め)
第22条 市長は、法その他の関係法律の規定に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、行政手続法(平成5年法律第88号)第36条の3第1項の規定に基づき、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めるものとする。
2〜9 (略)

この規定の趣旨について、前掲書(P112)では次のように説明している。

市長の求めに対して権限を有する国や県が適切に対応しているかどうかをモニタリング(監視)する旨を条例に具体的に明記し、市長がこれを運用することにより、事実上のプレッシャー(圧力)を国や県に与え、事態の悪化を防止しようとするものである。

私は、市長が行政手続法第36条の3の規定を活用すること自体は否定しないが、国・都道府県・市町村間においては、事務分掌がなされることが法制度上の建前と考えるのなら(地方自治法第1条の2、第2条参照)、上記のように条例で自治体の事務として明記することには違和感がある。
もちろん、権利利益の保護主体である住民の支援を行うことを条例で規定することは全く問題はなく、その支援の在り方として行政手続法第36条の3の規定の活用を考えるのであれば、住民が同条の規定に基づき申出を行うことを支援するというのが本来であろうと思う。
そして、それを市長が行うのであれば、運用等で行うという方法が妥当であろう。

*1:本書自体に対しては、私は、コンプライアンスという切り口で記載された立法実務書的なものとの印象を持ったところであり、良書である。