資格制度における名称独占等について〜保健師助産師看護師法における議論

次の規定は、保健師助産師看護師法の規定である。

第29条 保健師でない者は、保健師又はこれに類似する名称を用いて、第2条に規定する業をしてはならない。
第30条 助産師でない者は、第3条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法(昭和23年法律第201号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
第31条 看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
2 保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第5条に規定する業を行うことができる。
32条 准看護師でない者は、第6条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

上記のとおり、保健師については、保健業務自体は業務独占ではないが、保健業務における名称独占が規定され、違反には罰則が課せられている。他方、助産師、看護師及び准看護師については、業務独占ではあるが、その名称の使用について制限が設けられていない。
平成16年9月から、社会保障審議会医療部会において、医療提供体制のあり方について議論が行われ、その中で看護師等の名称独占が検討すべき論点として指摘された。このため、平成17年4月に厚生労働省有識者からなる「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」を置き、それについて検討されたことがある。
名称独占の意義については、平成17年5月27日に開催された同検討会に提出された資料「看護師、助産師及び准看護師の名称独占について」の中で、次のように記載されている。

一般に専門的な資格、業務を識別させ、それに対する社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を狙いとしていると考えられる。行政的に一定の水準を確保する手段として活用する狙いを持つものもあると考えられる。
なお、業務に関係なく、名称独占とされるもの(例 医師)が多いが、業務に関して名称独占とされるもの(例 保健師)もある。

なお、名称独占及び業務独占については、昭和63年12月1日、臨時行政改革推進審議会(新行革審)から「公的規制の緩和に関する答申」が出されているが、これは、資格制度が多く作られ過ぎているのではないかという問題意識から、資格の抑制を図ろうという観点からの答申であり、上記資料に次のとおり引用されている。

III 検査・検定制度・資格制度
3 資格制度
(3) 制度の内容等による区分とこれに応じた見直しの視点
(1) 業務独占資格
有資格者以外は当該業務に従事することを禁じることにより、資格者に対して業務を独占させるとともに業務上の一定の義務化を課する資格については、国民の生命や財産の安定を図る上で重大な役割を果たす者等に限定するとともに、業務独占の範囲を必要最小限のものとする。
(3) 名称独占資格
国民の利便や職業人の資質向上を図るため、一定の基準を充足している旨を単に公表し、又は一定の称号を独占的に証することを許す資格については、国が設けるにふさわしい特別な社会的意義を有する者に限定する。

しかし、上記検討会は、平成17年6月29日、次のとおり名称独占規制を行うべきとの中間まとめを行っている。

3 助産師、看護師及び准看護師の名称独占について
(1) 現状及び問題の所在
○ 昭和23年の法制定により確立した看護職員の資格規制においては、看護業務、助産業務については業務独占※1があるが、名称独占※2については、保健師に関して、その保健指導業務上の名称独占が認められているだけである。それに対して、その後創設された理学療法士(昭和40年資格法制定)等、看護業務の中の診療の補助業務の一部を業務範囲とする医療関係職種については、ほとんどの職種がその業務について業務独占としていることに加え、名称独占とされている。福祉関係資格である、社会福祉士介護福祉士(昭和62年資格法制定)については、業務独占がなく、名称独占となっている。
※1 一定の有資格者にのみ一定の業務の実施を独占させる規制。なお、一般に理学療法士理学療法に関する業務独占資格であると説明されているが、厳密に言うと、理学療法は看護業務の一部であるため、看護職員以外にはその実施が禁止されているが、理学療法の実施については、理学療法士にその禁止が解除されているということである。
※2  一定の有資格者についてのみその資格の名称の使用を認める規制。一般にその資格を有さない者にはその資格の名称又はその資格と紛らわしい名称の使用があわせて規制される。保健師のような限定的な名称独占規制は例外的である。
なお、名称独占のみの場合、業務の実施については制限されない。
○ これについては、以下のように問題点が指摘されている。
・ 医療サービスの不可欠の担い手であり、生命に関わるという看護関係資格の業務の本質から考えても、医療の質、安全の確保を図る上で、看護関係資格について名称独占とし、社会的な信用力を確保し、相手方との信頼関係の確立や被害の未然防止を図る必要性が高い。
・ 多くの医療関係職種や福祉関係職種において名称独占とされていることとも不整合であり、同じく名称独占とすべきである。
・ 名称独占が規制されていないことから、過去に遺憾な事例が存在した。特に、近年、医療に対する患者の信頼確保が重要な課題となっており、患者に対する正しい情報提供が求められる中で、名称独占とする必要がある。
・ 守秘義務のある資格でありながら、名称独占がないことは、資格としての信用力に欠けるおそれがある。
・ 保健師についても、これまでの保健指導業務に限らず、その資格としての信用力を背景として、幅広く活動の場が広がってきており、業務を限定せずに一般的な名称独占にすべきである。
 (2) 今後の方向性
○ 名称独占規制の必要性、緊急性については、意見が一致した。したがって、次期医療法改正と合わせて、法を改正し、助産師、看護師及び准看護師の名称独占を導入すべきである。ただし、紛らわしい名称についてどこまで規制できるのかなど、法制面での検討を行う必要がある。
○ また、保健師についても、あわせて、保健指導業務に限定しない、名称独占とすべきである。

看護職員については、業務独占という、名称独占より強い規制をかけられているのだから、名称独占規制を設ける必要はないとの議論もある中で(第3回検討会議事録参照)、名称独占規制がなされていない問題点もあることから、上記のような取りまとめがなされたのだが、未だ法改正はなされていないようである。