いわゆる障害者雇用の水増し問題に関する雑感

国及び自治体において障害者雇用の水増しがなされていたと報道されている問題について、国においては、第三者検証委員会を設置し、10月中には報告書をまとめるといった報道がなされている。
障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「法」という。)」において事業主に雇用義務が課されている障害者は、「対象障害者」として法第37条第2項で「身体障害者知的障害者又は精神障害者精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る……。)をいう」と定義されている。
このうち、身体障害者に関する法の定義規定は、次のとおりとなっている。

(用語の意義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)  (略)
(2) 身体障害者 障害者のうち、身体障害がある者であつて別表に掲げる障害があるものをいう。
(3)〜(7) (略)
別表 障害の範囲(第2条、第48条関係)
一 次に掲げる視覚障害で永続するもの
イ 両眼の視力(万国式試視力表によつて測つたものをいい、屈折異状がある者については、矯正視力について測つたものをいう。以下同じ。)がそれぞれ0.1以下のもの
ロ 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
ハ 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
ニ 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
二 次に掲げる聴覚又は平衡機能の障害で永続するもの
イ 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
ロ 一耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
ハ 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの ニ 平衡機能の著しい障害
三 次に掲げる音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害
イ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の喪失
ロ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の著しい障害で、永続するもの
四 次に掲げる肢体不自由
イ 一上肢 一下肢又は体幹の機能の著しい障害で永続するもの
ロ 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
ハ 一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
ニ 一上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
ホ 両下肢のすべての指を欠くもの
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、その程度がイからホまでに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
五 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの

この定義は、基本的には身体障害者福祉法における身体障害者の定義と同様なものとなっている。すなわち、同法第4条が「この法律において、『身体障害者』とは、別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」と規定しており、同法の別表は、法の別表と同じ内容となっている。
そのため、法の対象障害者である身体障害者は、原則として身体障害者手帳の交付を受けている者ということになるのだろうが*1、そのように明記するのであれば、法の定義を「都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者及びそれに準ずる者として〇〇で定める者」といったような書き方が考えられる。しかし、そうした書き方をしていないのは、そもそも対象障害者の雇入れは、努力義務であり(法第37条第1項)*2、国及び地方公共団体の義務は、対象障害者の雇用が法定雇用率に達していない場合に、当該者の採用計画を作成することであることから(法第38条第1項)*3、多少解釈の余地を残したのではないかという気がしないでもない。
こうしたことからすると、現在の担当者が適切な事務処理を行うことはかなり難しい面があるのではないかと感じるところである。そうした意味からも、国の第三者検証委員会の報告がどのようなものになるのか注目したいところである。

*1:したがって、身体障害者手帳の交付を受けていなくても、その申請をすれば受けられるような状態にある者であることが必要ということになるだろう。

*2:法第37条第1項は、「全て事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであつて、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない」という規定である。

*3:法第38条第1項は、「国及び地方公共団体の任命権者……は、職員……の採用について、当該機関に勤務する対象障害者である職員の数が、当該機関の職員の総数に、第43条第2項に規定する障害者雇用率を下回らない率であつて政令で定めるものを乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)未満である場合には、対象障害者である職員の数がその率を乗じて得た数以上となるようにするため、政令で定めるところにより、対象障害者の採用に関する計画を作成しなければならない」という規定である。