条例を廃止する理由〜熱中症の予防に関する条例

近年の夏の猛暑は、従来にないものだということは今まで言われてきたが、今夏は、特に強烈なものだったと思う。人が熱中症で病院に搬送されることと対比して、蚊は気温が35度を超えると活動をしなくなるといったことが話題になったりもした。
そんな中、滋賀県草津市では、平成17年に「草津市熱中症の予防に関する条例」を制定しており、それを知ったときは時代を先取りしているような印象を持ったところである。
この条例が制定された理由は、吉田勝光ほか『文化条例政策とスポーツ条例政策』(165頁)によると、平成16年7月8日に市内の高等学校で教職員及び生徒16名が熱中症と思われる症状で緊急搬送されたことがきっかけとのことである。
条例の内容は、市内において熱中症が発症しやすい気象条件となった場合に市長が熱中症厳重警報を出すこととするほか、市、市民、事業者及び施設管理者の責務などを定めていた(前掲書167頁)。
しかし、この条例は、早くも平成22年に廃止されている。その主な理由は、次のとおりである(前掲書170頁)。

  • テレビなどで熱中症の注意喚起がなされるようになり、熱中症の認知度が高まった。
  • 人の体調により、発症に至る水準は様々である。熱中症厳重警報発令以前でも、救急搬送者がいる実態がある。
  • 職員の負担、人件費等の問題

条例を廃止したことについて、前掲書(174頁)は、次のとおり批判的な見解を述べている。

……廃止理由は、同条例を全面的に廃止するだけの合理性に欠け、また、条例の存続自体が住民などへの注意喚起の手段としてその効果は十分期待できることから、熱中症厳重警報発令制度を削除する一部改正にとどめる方法も十分に検討されるべきであった。

しかし、そもそもこの条例は、熱中症厳重警報が発令された場合であっても、住民等は「熱中症の発症を回避するための措置を講ずるものとする」と規定するのみであり(条例第7条第4項(前掲書174頁))、住民等の具体的な行為規範たる規定を有しておらず、内容としては条例を制定する意味はなかったものであり、むしろ早期に廃止したのは、それなりに評価すべきではないだろうか。
いずれにしろ、法令は、制定事例だけではなく、廃止の経緯等について見ていくと、興味深いものもあるように感じる。