自治体の区域外にある者を処罰する規定

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定に併せて、各自治体では個人情報保護条例の改正が行われている。
ところで、この法律は、職員又は個人情報の取扱いに関する受託業務への従事者が個人情報を提供した場合等についての罰則規定を置いているが、次のように国外犯を処罰する規定を置いている。

前3条の規定は、日本国外においてこれらの条の罪を犯した者にも適用する。

個人情報保護条例においても同様の場合についての罰則規定を置く場合、受託業務者などはその自治体の区域にあるとは限らないから、その区域外にある者に対しても罰則を適用したいと考えるだろう。そして、実際、次のような規定を置いている条例もある。

〜の規定は、○(「県」とか「市」とか)の区域外においてこれらの条の罪を犯した者にも適用する。

この場合、2点程考えてみるべきことがあると思う。1点目は、罰則を適用されるのは国内にある者に限られるのか、国外にある者も含まれるのかということであり、2点目は、そもそもこうした規定を置かなければいけないのかということである。
1点目については、条例においては、国外にある者を処罰する規定を設けることができない、すなわち、国内犯しか処罰し得ないのではないだろうか。なぜなら、刑法において国内犯処罰が原則とされていることからすると、その例外を条例で定めることはできないのではないかと思うからである。
次に2点目について、当該自治体の区域外にある国内犯を処罰する場合に、上記のような規定を置く必要があるかであるが、その必要はないのではないかと思う。
条例の効力の及ぶ範囲は、その自治体の区域内に限られるのが原則とされているが、これは法律等で明記されてはいないと思うので、国内犯処罰を原則とすることが刑法で明記されている場合とは事情が異なる。
地方自治法上は、「地域における事務」と「その他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」について条例を定めることができることとされているが(地方自治法第14条第1項・第2条第2項)、この地域の事務について、次のような記載がある。

「地域」という用語は、単なる空間的な概念のみを表す用語でなく、普通地方公共団体の三要素とされる「区域」「住民」「自治権」の3つを含め、広い意味でとらえ得るような用語と解され、「地域における事務」は、現に地方公共団体において処理されている事務のほとんどすべてを含み得る広い概念として構成されている。このような意味で、ある事務がその区域内で場所的に完結しているかどうかではなく、住民を含め当該区域との合理的な関連性が認められれば、「地域における事務」であると考えられる。(松本英昭『要説地方自治法』P124)

つまり、受託業務者等に対し規制を行う場合、当該自治体の区域外にある者を対象にすることは、その区域との合理的な関連性は認められるし、むしろ当然のことであると思うので、区域外にある者を処罰する旨の規定を置かなくても、当然対象にしているものと考えられるからである。
もちろん、罰則の問題であるだけに、確認的に規定を設けることについては反対するものではないし、むしろ好ましいのかもしれない。ただ、その場合には、「〜適用する」ではなくて、「〜適用するものとする」の方が、法制執務的には適当だと思うが。