「法的な考え方」とは

現在の公職選挙法第58条は、次の規定となっている。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。
2 前項の規定にかかわらず、選挙人の同伴する子供(幼児、児童、生徒その他の年齢満18年未満の者をいう。以下この項において同じ。)は、投票所に入ることができる。ただし、投票管理者が、選挙人の同伴する子供が投票所に入ることにより生ずる混雑、けん騒その他これらに類する状況から、投票所の秩序を保持することができなくなるおそれがあると認め、その旨を選挙人に告知したときは、この限りでない。
3 選挙人を介護する者その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めた者についても、前項本文と同様とする。

この規定は、「国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第24号)」により改正され、現在の姿になっているが、かつては、次のような規定(以下「旧規定」という。)であった。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者及び当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。

現在の規定であれば問題ないのだが、旧規定の場合には、選挙人が幼児を連れて投票所を訪れた場合に、その幼児が投票所に入れるのか問題となる。
この点について、『自治体法務研究(No.55)』において、ある自治体の職員の方は、公職選挙法の目的は、「選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われること」であり、幼児を連れて入ることがその妨げになることはないので、当然これを認めるべきであり、それが法的な考え方だとしている。
結論に異論はないのだが、それが法的な考え方だと言われると、やや疑問を感じるところである。旧規定は、選挙が「公明かつ適正」に行われるために、投票所には必要最小限の者しか入れないようにしたというのが趣旨であり、むしろ現在のような規定になっているのは、投票率の向上という点に主眼があるのではないかと感じる。仮に、旧規定で選挙人の連れた幼児が投票所に入ることを認めるのであれば、選挙人との一体性という点に着目した解釈を行う方が自然な感じがする。
ちなみに、上記の職員の方は、現在の規定を「親切心にあふれた条文」と評しているが、私も冗長な感じがするのが否めず、投票所に入ることができる者の判断は、投票管理者に任せればいいのではないかと感じた。そこで、その経過を見てみると、旧規定は、平成28年法律第24号で現在の規定になったわけではなく、「公職選挙法の一部を改正する法律(平成9年法律第127号)」で一度次の規定になっている。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。ただし、選挙人の同伴する幼児その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めたものについては、この限りでない。

「この限りでない」という表現がしっくりこない面はあるが、これで十分である。しかし、現在のような規定になったのは、実務において不都合なことがあったのだろう。