水源地域保全条例案

外資の大規模森林買収に対抗 埼玉県が2月議会に水源保全条例案提出へ
中国企業などが日本の水源地を大規模に買収しようとする動きが活発化していることから、埼玉県は土地取引の際に所有者に事前届け出を義務づける水源地域保全条例案を県議会2月定例会に提出する。
国土交通省林野庁によると、平成18〜22年に北海道などの森林約620ヘクタールが中国など外資に買収されており、水資源獲得が目的とみられる土地取引が全国的に目立っている。
県内では現時点で外資による買収は確認されていないが、東京都内で水道水として利用される荒川の源流があり、秩父市などではミネラルウオーターの生産も盛んなことから、県議会でもこの問題はたびたび議論の対象となってきた。
上田清司知事も昨年の9月県議会で、「水源保全地域の指定や土地取引の事前届出制の導入などを盛り込んだ方策を、条例化を前提に検討している」と答弁している。
条例案では、森林を売却する際、売却先の業者名や目的、面積などを事前に県に届けることを森林所有者に義務づける。こうした情報を把握しておくことで、県が売買の実態を確認したり、地元の自治体に意見を求めたりすることが狙い。また、水源地保全について森林所有者に意識喚起を促すという効果も期待している。
MSN産経ニュース2012年2月7日配信

地下水の保全等を目的とする条例は、熊本県のほか、市町村レベルで幾つか事例はあるのだが、その規制内容は、取水についての届出や許可など、取水の段階における規制である。他方、上記の例は、外資による土地の取得を懸念し、私的取引に対し何らかの干渉を試みようとするものであろう。
そして、この条例案の主な目的が情報収集であるとしても、当然、必要に応じて自治体が土地を取得することを念頭に置いているのだと思う。「自治体管理職の独り言」でも記載されているが、私も上記の報道を見て思い浮かんだのは、「公有地の拡大の推進に関する法律」のスキームである。同法は、次のように土地の買取の協議により、自治体が優先的に土地を取得することができるようにしている。

(土地の買取りの協議)
第6条 都道府県知事は、第4条第1項の届出又は前条第1項の申出(以下「届出等」という。)があつた場合においては、当該届出等に係る土地の買取りを希望する地方公共団体等のうちから買取りの協議を行なう地方公共団体等を定め、買取りの目的を示して、当該地方公共団体等が買取りの協議を行なう旨を当該届出等をした者に通知するものとする。
2 前項の通知は、届出等のあつた日から起算して3週間以内に、これを行なうものとする。
3 都道府県知事は、第1項の場合において、当該届出等に係る土地の買取りを希望する地方公共団体等がないときは、当該届出等をした者に対し、直ちにその旨を通知しなければならない。
4 第1項の通知を受けた者は、正当な理由がなければ、当該通知に係る土地の買取りの協議を行なうことを拒んではならない。
5 (略)

しかし、私的取引に関しこのような干渉を行うことは、法律であるからできることであって、条例でこのような規定を置くことは許されないと考えるべきであろう*1
さらに、上記の条例による届出があったことを契機として、行政側からの指導助言等により結果的に自治体が土地を取得することができることになったとしても、当該届出を行う段階では、当事者間においては土地が売買されることについて、かなり話が進んでいるであろうから、土地を譲り受けようとしていた者に対する賠償の問題なども出てくることも考えられる。
そうすると、事前に届出をさせるとしても、もう少し早い段階でさせる必要があるように思うのだが、そのための良い方法は思い浮かばない。現状としては、上記のようなスキームで情報収集をすることが精一杯ということだろうか。

*1:成田頼明『地方自治の保障』(P183)は、取引の効力を否認するなどの私法秩序の形成等に関する事項は条例では規定できないとしている。他方、これは第1次分権前の考え方であり、松永邦男ほか『自治立法』(P64)は、現在ではこのような考え方をとるかどうかは問題であるとしている。しかし、私は条例事項に関する基本的な考え方は変わっていないものと思っている。