典型的なものを列挙する規定〜抗告訴訟の類型

次の規定は、抗告訴訟を定義している行政事件訴訟法第3条の規定である。

抗告訴訟
第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
(1) 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
(2) 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

抗告訴訟は、行政事件訴訟法第3条第2項から第7項までに定めるものに限られるのではなく、これらとは異なる類型の抗告訴訟を認めることは共通した考え方であり、これを無名抗告訴訟あるいは法定外抗告訴訟と呼んでいる。
この法定外抗告訴訟について、宇賀克也『行政法概説2(第4版)』(P119)には、次のように記載されている。

行政事件訴訟法2条の規定の仕方と3条の規定の仕方を比較すると、同法は、抗告訴訟を3条2項から7項に列挙されたものに限定する趣旨でないことが明らかである。すなわち、同法2条は、「『行政事件訴訟』とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟及び機関訴訟をいう」と規定しているから、行政事件訴訟をこの4類型に限定する趣旨であると解されるのに対して、同法3条1項は、「抗告訴訟とは、○○、△△、□□である」と規定するのではなく、「『抗告訴訟』とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう」と定義したうえで、「処分の取消しの訴え」等の定義規定を列挙している。これは、抗告訴訟のうち典型的なものを列挙するが(法定抗告訴訟。典型抗告訴訟、有名抗告訴訟ともいう)、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟は他にもありうるので、列挙されたものに限定せず、それ以外のもの(法定外抗告訴訟。無名抗告訴訟ともいう)が認められる余地を残すためである。

しかし、このことは、行政事件訴訟法第3条を見てすぐには理解できない。明確に規定するのであれば、次のようになるだろう。

抗告訴訟
第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、処分の取消しの訴え、裁決の取消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え、差止めの訴えその他の行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2〜7 (略)

なお、特定の事項を例示する場合の規定例として、次の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」第2条の例がある。

(定義)
第2条 (略)
2 (略)
3 この法律において「青少年有害情報」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されている情報であって青少年の健全な成長を著しく阻害するものをいう。
4 前項の青少年有害情報を例示すると、次のとおりである*1
(1) 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報
(2) 人の性行為又は性器等のわいせつな描写その他の著しく性欲を興奮させ又は刺激する情報
(3) 殺人、処刑、虐待等の場面の陰惨な描写その他の著しく残虐な内容の情報
5〜12 (略)

これと同様の書き振りにするのであれば、次のようになるであろう。

抗告訴訟
第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 抗告訴訟を例示すると、処分の取消しの訴え、裁決の取消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付けの訴え及び差止めの訴えである。
(以下略)

しかし、例えば民法における典型契約の列記の仕方も明確な書き振りではないことからすると、典型的なものを列挙する規定の書き方としては、かつては行政事件訴訟法第3条のような書き方が一般的であったのかもしれない。

*1:「……例示すると、おおむね次のとおりであるとする例もある(地方自治法第170条第2項等)。