改める途中で全改される条を移動する場合の改め方

tihoujitiさんが、条を全改して移動する場合について取り上げていたのを拝見して(http://d.hatena.ne.jp/tihoujiti/20070316)、私も取り上げてみようと思ったのですが、その前に、項(号も同様)を加えた条を移動する場合のことから書いていくことにします。
例えば、第6条に第2項を加えて、同条を第7条とする場合、次の2つの方法が考えられる。

<例1>
第6条に次の1項を加え、同条を第7条とする。
2 (略)

<例2>
第6条に次の1項を加える。
2 (略)
第6条を第7条とする。

一部改正法令の施行による改正は、施行の時に、すべての改正が同時に行われるが、改正案文は、原則として対象法令の冒頭から順次作成していくこととされている*1。そうすると、例2の方がそれに即しているであろうし、個人的にはその方が良いと思っている。しかし、法令の例を見ると、現在は例1の方が多いように感じるが、その方が合理的であることは間違いない。
ところで、上記の例の場合、通常は第5条を繰り下げる必要があるが、単純に繰り下げるだけのときは、例2であれば、「第6条を第7条とする。」という部分を「第6条を第7条とし、第5条を第6条とする。」とすればいいであろう。しかし、例1の場合は、「同条を第7条とする。」を「同条を第7条とし、第5条を第6条とする。」としたのでは、その後に新第7条の第2項が書かれるのもどうかと思うので、第2項を加えた後に改行して「第5条を第6条とする。」とした方が良いような感じがする。以前、条を移動するだけの改め文は、語句を改めて移動する条の改め文と併せてしまうか別にするかについて、後者の方が多いような感じがしているといったことを記載したが(「条を移動させる改正を行う場合の改め文の区切り方」)、例1をとることを認めるのであれば、後者のようにした方が統一的な取扱いをすることができるので、適当だと言えるかもしれない。
では、第6条の改正が全改の場合については、実際には、やはり条の削り・加えによる改正を考えるであろう。だから、次のようにするのは違和感があるのだが、理屈としては、いずれもありなのだとは思う。

<例3>
第6条を次のように改める。
第7条 (略)

<例4>
第6条を次のように改める。
第6条 (略)
第6条を第7条とする。

例3については、法令でも例はあったのだろうが(kei-zuさん記載の記事(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070317)参照)、これは、表の項を全改する場合と考え方は同じである。つまり、「第6条」の「6」を「数」というよりは「図」と同じように考えているような感じがする。前田正道『ワークブック法制執務』(P342〜)で取り上げられている宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和46年法律第110号)では、第19条を第50条とし、同条の次に1節、章名及び6条を加える場合に、次のようにしているが、これも考え方としては同じではないだろうか。

<例5>
第19条の次に次の1節、章名及び6条を加える。
第2節 指定保証機関
(第51条から第64条まで 略)
第6章 監督 (第65条から第70条まで 略)
第19条の見出し中「掲示」を「掲示等」に改め、同条に次の1項を加え、同条を第50条とする。
(略)

最近は、例3も例5もあまり見かけないが、それは、「第6条」の「6」をあくまでも「数」として考えるということなのではないか。そのように考えると、第6条を第7条とするのであれば「第6条を第7条とする。」だろうし、第51条は第50条となる第19条の次にくるのだから、「第19条を第50条とし、同条の次に……」となるであろう。
また、例4については、同じ箇所に2度手を付けることになるが*2、このような例は、法令でも章の移動のときにやむを得ず行っている例は時々見かける。
このように、例3も例4も、技術的には可能なのであろうが、実際には使わない方がいいのではないかと思う。例えば、上記の第6条が末条だった場合にも、例3とか例4を使うだろうか。やはり、第6条を削って、第5条等の繰り下げを行った後に第7条を加えるのが普通ではないか。もちろん、途中の条の場合と末条の場合とを分けて、それぞれルールを決めてもいいのだが、ルールは少ないに越したことがないと思う。
最後に、条の加え・削りで改める方法について触れておく。
例えば、第8条を第9条に、第7条を第8条に繰り下げ、第6条を全改して第7条に繰り下げ、第5条を第6条に繰り下げ、新たな第5条を追加する場合について、石毛正純『自治立法実務のための法制執務詳解(四訂版)』(P386)の記載を引用する*3

<例6>
第8条を第9条とし、第7条を第8条とし、第6条の次に次の1条を加える。 
(……)
第7条 ……
第6条を削り、第5条を第6条とし、第4条の次に次の1条を加える。
(……)
第5条 ……

これは、第8条の移動から始めているが、上述したとおり、改正案文は原則として対象法令の冒頭から作成すべきであることからすると、次のように第6条の削りから始める書き方も考えてみる価値があるであろう。

<例7>
第6条を削り、第5条を第6条とし、第4条の次に次の1条を加える。
 (……)
第5条 ……
第8条を第9条とし、第7条を第8条とし、第6条の次に次の1条を加える。
(……)
第7条 ……

<例8>
第6条を削り、第5条を第6条とし、第4条の次に次の1条を加える。
 (……)
第5条 ……
 第8条を第9条とし、第7条を第8条とし、同条の前に次の1条を加える。
(……)
第7条 ……

例7の「第6条の次に次の1条を加える。」という「第6条」は、すべての改正は同時に行われることからすると、新第6条ではなく、旧第6条だと考えるのであろうが、その前で第6条を削っているだけに、この方法だと嫌な感じはする。
その辺を解消しようとすると例8になるのだが、ここでは、「○○の前に次の1条を加える。」という例外的な手法を使うのがどうかという意見もあろう。
このように、どれも一長一短があるが、これも、第○条という「○」を「図」と捉えるか「数」と捉えるかによるのではないかと思う。そして、私は、後者の意識が強いせいか、例7で良いのでないかと思っているし、そうすることにあまり違和感を持っていない。つまり、「数」と捉えると、「第7条」というのは当然「第6条」の次にくるものであるからである。そして、この場合には、新第7条の位置に疑義が生ずることもないので、最も、一般的なルールに即した改め方になるのではないかと思う。
<追記>2008.1.13

  • 法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P342)では、「条については、その全部を改正した後当該条を移動するという方式は採らない(当該規定を置くべき場所の条名の条の全部の改正又は新たな条の追加の方式とする。)。」とされており、これによると例3の方式も例4の方式もとりえないことになる。
  • 法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』では、例5の規定例は掲げられていないので、現在は用いられていない方法と言ってよいであろう。

*1:とりあえず、大島稔彦『法制執務の基礎知識』(P178〜)参照

*2:kei-zuさん経由washitaさん掲載の記事(http://d.hatena.ne.jp/washita/20051122)によると、「二度引き」というようである。

*3:kei-zuさんが上記記事で引用しているものと同じである。