定義規定に規定する用語(3)

今回対象にしている法律は、条数の少ない法律を取り上げているので、定義規定を置いた場合には、用語に特定の範囲のものを含ませたり、用語を特定の範囲に限定したりするものを除いて、用語の定義は、その定義規定において行うのがほとんどである。
しかし、次に掲げる特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律のような例外もある。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
(2) 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
(3) 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
(4) 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。
(発信者情報の開示請求等)
第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
(1)・(2) (略)
2〜4 (略)

この法律は、題名のとおり特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めるものであるため、「発信者情報」という用語は、この法律のキーワードと言えると思うが、第2条の定義規定ではなく、その用語が使われている第4条第1項で括弧を用いて定義している。実際には何が「発信者情報」に当たるかは省令に委任する形にしているため、あえて第2条では定義しなかったのかもしれないが、よく分からない。私だったら、第2条第4号で「発信者」を定義していることもあり、同条第5号で定義してしまうだろう。
同様に、定義規定を置いたにも関わらず、法令の規定中でも括弧を用いて定義している例として、次に掲げる道路整備費の財源等の特例に関する法律がある。

道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和33年法律第34号)
(定義)
第2条 この法律において「道路整備費」とは、高速自動車国道及び一般国道並びに政令で定める都道府県道その他の道路の新設、改築、維持及び修繕に関する事業(これに密接に関連する環境対策事業その他の政令で定める事業を含む。以下「道路の整備に関する事業」という。)の実施に要する国が支弁する経費をいう。
(地方道路整備臨時交付金
第5条 (略)
2 (略)
3 地方道路整備臨時交付金をその費用の財源に充てて対象事業を実施しようとする道路管理者は、毎年度の当該対象事業の実施に関する計画を国土交通大臣に提出するものとする。この場合において、当該対象事業が道路管理者を異にする二以上の道路に係るものであるときは、関係道路管理者が協議して当該計画を作成するものとする。
4 地方道路整備臨時交付金は、前項の規定により提出された計画に基づき、地方公共団体ごとに交付するものとし、その額は、第2項の規定による地方道路整備臨時交付金の限度額に配分割合(当該地方公共団体が前項に規定する計画に基づき実施する対象事業に要する費用の額を当該年度において提出された同項に規定する計画に基づき実施されるすべての対象事業に要する費用の合計額で除した割合をいう。)を乗じた額を基礎とし、当該地方公共団体における道路の整備の状況その他の事情を勘案して国土交通省令で定める基準に従い補正した額とする。ただし、その額は、当該地方公共団体が同項に規定する計画に基づき実施する対象事業に要する費用の額を超えることができない。
5・6 (略)

この法律の第5条第4項で定義している「配分割合」という用語は、同条第3項の計画を受けて記載しているので、ここで定義した方が適当なのであろう。さらに、この用語はこの法律のキーワードとも言えない。もちろん、その法令のキーワード以外の用語であっても、数多く用いられていれば別であるが、定義規定では、その法令のキーワードを定義し、それ以外の用語は、それが用いられている箇所で括弧を用いて定義するのだという、1つの考え方を提示してくれているように感じる。