定義規定に規定する用語(2)

定義規定には、そのほとんどでその法令における重要な用語、すなわちその法令のキーワードとなる用語を含んでいる。法令のキーワードとしてどのようなものがあるかということは、比較的判断しやすいと思う。
典型的なものが、題名に使われている用語であるが*1、それを定義している例として、次に掲げる特定融資枠契約に関する法律がある。

特定融資枠契約に関する法律(平成11年法律第4号)
(定義)
第2条 この法律において「特定融資枠契約」とは、一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約であって、意思表示により借主となる当事者の一方が契約を締結する時に次に掲げる者であるものをいう。
(1)〜(6) (略)

また、経済協力開発機構金融支援基金への加盟に伴う措置に関する法律は、次のような定義規定を置いているが、同法が「経済協力開発機構金融支援基金を設立する協定」の円滑な履行を確保することを目的としているため、これもキーワードを定義していると考えてよいのではないだろうか。

経済協力開発機構金融支援基金への加盟に伴う措置に関する法律(昭和51年法律第38号)
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 特別引出権 協定*2第3条第1項(a)に規定する特別引出権をいう。
(2) 実際上交換可能通貨 協定第7条第5項(b)に規定する実際上交換可能通貨をいう。
(3) 貸付予約 協定第7条第2項に規定する貸付予約をいう。

次に、金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律の定義規定を掲げる。

金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律(平成10年法律第108号)
(定義)
第2条 この法律において「特定金融取引」とは、金利、通貨の価格、有価証券市場における相場その他の指標に係る変動、市場間の格差等(以下この項において「金利変動等」という。)に基づいて算出される金銭の授受を約する取引その他の金利変動等を利用して行われる取引のうち、証券取引法(昭和23年法律第25号)第2条第8項第3号の2に規定する有価証券店頭デリバティブ取引その他の内閣府令で定めるものをいう。
2 この法律において「金融機関等」とは、次に掲げる法人をいう。
(1) 銀行法(昭和56年法律第59号)第2条第1項に規定する銀行又は長期信用銀行法(昭和27年法律第187号)第2条に規定する長期信用銀行
(2) 証券取引法第2条第9項に規定する証券会社又は外国証券業者に関する法律(昭和46年法律第5号)第2条第2号に掲げる外国証券会社
(3) その他我が国の法令により営業若しくは事業の免許、登録等を受けている法人又は特別の法律により設立された法人であって、自己又は顧客の計算において特定金融取引を相当の規模で行うものとして政令で定めるもの
3 この法律において「破産手続等」とは、破産手続、再生手続又は更生手続をいう。
4 この法律において「一括清算事由」とは、破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立てをいう。
5 この法律において「基本契約書」とは、特定金融取引を行おうとする金融機関等とその相手方との間において二以上の特定金融取引を継続して行うために作成される契約書で、契約の当事者間において行われる特定金融取引に係る債務についてその履行の方法その他当該特定金融取引に関する基本的事項を定めるものをいう。
6 この法律において「一括清算」とは、基本契約書に基づき特定金融取引を行っている当事者の一方に一括清算事由が生じた場合には、当該当事者の双方の意思にかかわらず、当該一括清算事由が生じた時において、当該基本契約書に基づいて行われているすべての特定金融取引についてその時における当該特定金融取引のそれぞれにつき内閣府令で定めるところにより算出した評価額を合算して得られる純合計額が、当該当事者間における一の債権又は一の債務となることをいう。

この法律の第1条では「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算についての破産手続等における取扱いを確定することにより‥‥」としているため、この定義規定はいずれもキーワードを定義していると言ってよいであろう。ただ、「基本契約書」という用語は、第6項の「一括清算」の定義の中で用いられており、「一括清算」という用語の意味を明確にするために用いられている用語に過ぎないと考えることもできるような感じもする。しかし、この用語は、第3条でも用いられているので、第2条以外で定義することはできないであろう。
このように定義している用語を説明する用語を定義している例としては、次に掲げる身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律がある。

身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年法律第54号)
(定義)
第2条 (略)
2 この法律において「解説番組」とは、テレビジョン放送(放送法第2条第2号の5に規定するテレビジョン放送をいう。以下同じ。)において送られる静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組をいう。
3 この法律において「字幕番組」とは、テレビジョン放送において送られる音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をいう。
4 この法律において「通信・放送身体障害者利用円滑化事業」とは、次に掲げる業務を行う事業であって、身体上の障害のため通信・放送役務を利用するのに支障のある者が当該通信・放送役務を円滑に利用できるようにするためのもので、身体障害者の利便の増進に著しく寄与するものをいう。
(1) 通信・放送役務を提供し、又は開発する業務
(2) 通信・放送役務を提供するための電気通信設備に付随する工作物を設置する業務
(3) 解説番組、字幕番組その他の放送又は有線放送の放送番組を制作する業務

第2項の「解説番組」という用語と第3項の「字幕番組」という用語は、第4項第3号でしか用いられていない。同号は、これらの用語を使わなくても、次のように書くことも可能だと思う。

(3) 次に掲げる放送番組その他の放送又は有線放送の放送番組を制作する業務
イ テレビジョン放送(放送法第2条第2号の5に規定するテレビジョン放送をいう。以下同じ。)において送られる静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組
ロ テレビジョン放送において送られる音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組

これは、「解説番組」、「字幕番組」という用語を法律の中に書くことが重要だったということかもしれないが、いずれにしろ、定義している用語を説明する用語を定義する必要がある場合には、当該用語を定義規定で定義することがあると言えるかと思う。

*1:山本庸幸『実務立法演習』(P39〜)では、「その法律案の題名の一部になったり……するような用語……は、第2条において定義すべきでしょう。」としている。

*2:経済協力開発機構金融支援基金を設立する協定」のこと。第2号及び第3号も同様