自治体の組織(1)〜はじめに

自治体の組織については、その例規の審査をしていていろいろ感じることがあったので、それをいつか書こうとは思っていたのだが、たまたまこの4月に関係する部署に異動した知人がいたので、ここで1度まとめてみることにした。
自治体の組織については、なお法律で規定されている部分が多いので、例規審査においては、法律において条例で定めることとされているものは条例で定め、それ以外については規則等で定めればいいのであるから、比較的楽な分野であると思っていた。
ただ、なぜこれは条例で定めなければいけないのかということまで考えると結構難しい。基本的には国の組織に準じており、国の組織で法律で定めることとされている事項は、自治体では条例で定めることとされていることが多いが、異なっている部分もある。
例えば、内部組織について、次のとおり、自治体における長の組織については直近下位のそれを条例事項としているが、国については法律事項とされていない。

地方自治法
第158条 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務を分掌させるため、必要な内部組織を設けることができる。この場合において、当該普通地方公共団体の長の直近下位の内部組織の設置及びその分掌する事務については、条例で定めるものとする。
②・③ (略)
国家行政組織法
(内部部局) 第7条 省には、その所掌事務を遂行するため、官房及び局を置く。
2 前項の官房又は局には、特に必要がある場合においては、部を置くことができる。
3 庁には、その所掌事務を遂行するため、官房及び部を置くことができる。
4 官房、局及び部の設置及び所掌事務の範囲は、政令でこれを定める。
5 庁、官房、局及び部(その所掌事務が主として政策の実施に係るものである庁として別表第2に掲げるもの(以下「実施庁」という。)並びにこれに置かれる官房及び部を除く。)には、課及びこれに準ずる室を置くことができるものとし、これらの設置及び所掌事務の範囲は、政令でこれを定める。
6 実施庁並びにこれに置かれる官房及び部には、政令の定める数の範囲内において、課及びこれに準ずる室を置くことができるものとし、これらの設置及び所掌事務の範囲は、省令でこれを定める。
7・8 (略)

組織に関する事項は、権利義務に関する事項であり、法律事項であるとされているであるが*1、では、内部組織については、どの程度まで法律で定めなければいけないのであろうか。
この点について、佐藤功『行政組織法(新版・増補)』(P92)が参考になるので、引用しておく。

問題は、従来の官制の内容がすべて法律で定められることを要するかにある。そしてこの問題は、すでに憲法の審議に当たって貴族院において詳細に論議された点であった。すなわち沢田牛麿議員の「今度は官制というものが全部法律事項になるのでありますか」という形の質問に対して、金森国務大臣は、憲法の解釈として、省の設置(したがってその所掌事務をも含む)は、1つには憲法自体が法律によって定めるものとしている内閣の組織と密接不可分であること(このことは……、66条1項を74条の「主任の国務大臣」の規定と関連させて解する考え方を示す)、第2には、いかなる行政事務がいかなる省の所掌であるかは「国民との間の意思作用を起すもの」であり、また「国民の権利義務と直接に関連するもの」であることの結果として法律で定めるべきであるが、省の内部組織(職員、その定員をも含む)は法律を要しないが、ただ……国会の尊重という見地から、憲法上は法律を要せず命令で定めうる事項についても法律で定めることとするのが妥当である、ただその場合も行政の機動性の確保という面から法律の委任という方法によって両者の要請を調和しうるであろう、という趣旨を述べたのであった。

上記のとおり、国は、官房・局・部の設置及び所掌事務については政令で定めることとしている。しかし、昭和58年の国家行政組織法改正前は法律事項とされていたが、これは、その事項を政令事項としていた原案を参議院において修正されたことによるものである。そうすると、国の官房等の設置が国会としてある程度権限を留保しておきたいという程度の意味しかないのであれば、仮に、自治体の内部組織の一部を条例で定めることとしているのは、昭和58年以前の国の制度を参考にしたということであれば、大統領制のような形態をとる自治体においてはそれ以上の意味は見出すことができず、理論的には説明できないのだろう。
また、審議会等の附属機関について、次のとおり、自治体は条例事項としているが、国は政令事項としているものもある。

地方自治法
第138条の4 (略)
② (略)
③ 普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。ただし、政令で定める執行機関については、この限りでない。
国家行政組織法
(審議会等)
第8条 第3条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。

国の審議会等については、やはり昭和58年の国家行政組織法の改正で、すべて法律事項とされていたのが一部政令事項とされたのであるが、法律事項とするか政令事項とするかの考え方としては、臨時行政調査会から「不服審査、個別具体的な行政処分に関与するもの、その他法律により規制すべき特段の事由のあるものを除き、その設置・改廃は政令事項に改めることとする」という提言がなされ、それに沿って次のように整理された。

法律によるものと政令によるものとの区分については、……現に設置されている審議会等213機関を、(1)各省庁設置法以外の実体法に設置根拠が定められている129機関(たとえば検察庁法の定める検察官適格審査会・公害対策基本法の定める中央公害対策審議会など)は従来どおり法律で定めること、(2)各省庁設置法のみによって設置されている84機関については政令で定めることとして区分した(ただし、各省庁設置法のみによって設置されているものであっても、(1)みずから国家意思を決定・表示する権能を有するもの。たとえば公衆衛生審議会、(2)審議会の構成員の任命について国会の同意など特別の定めがあるもの。たとえば運輸審議会地方財政審議会など、(3)審議会の構成員に国会議員を充てるもの。たとえば国土審議会などは、従来どおり各省庁設置法で定めることとしている)。(佐藤功『行政組織法(新版・増補)』(P359〜))

上記の考え方を自治体が条例により設置する附属機関に当てはめると、条例で定める必要はないことになる。
このように、自治体の組織に関する制度は、理論的に説明できない部分もあるのだと感じているが、そのようなことを踏まえつつ、次回以降、次の項目について順次記載していくこととしたい。

  1. 執行機関
  2. 各執行機関(特に長)の組織
    1. 出先機関
    2. 内部組織
  3. 委任と専決
  4. 附属機関

*1:山本庸幸『実務立法演習』(P14)では、「法律に基づく行政の原理の下では、これらの行政組織の権限には法律上の根拠が必要で、その意味では、権利義務にかかわる事項そのものであるからである」と記載されている。