特別職の職員の給与等の減額等

特別職の職員の給与を減額したり、退職手当を支給しないようにすることは、結構行われているのではないかと思う。
そのうち、財政事情を考慮して特別職の職員の給与を一定期間減額するため条例上手当てすることについては、すべての又は一定の範囲の特別職を対象にすることになるかと思うので、法的に問題となることは特に考えられない。
しかし、特定の者が、自身の不祥事の責任をとるために条例上手当てをして給与を減額しようとする場合には、考えるべき問題があると思う。通常、このような場合に、給与の返納という形ではなく、条例改正で対応するのは、公職選挙法に基づく寄附禁止規定に触れるおそれがあるためであるが、以前、特定の議員について、このような改正条例案を提案できないか相談を受けたことがある。そのときは、こうした条例案は、結果的にその議員に対する懲罰的な意味を持つことになり、地方自治法第135条第1項で明記されている懲罰以外の懲罰を科すことになりかねないので、問題があるのではないかと答えた。ただ、不祥事の責任をとって条例改正により給与を減額することは、長の場合には結構行われているのではないかと思う。
この問題は、まず、法の一般性・抽象性の観点から考えてみなければいけないのではないかと思う。法の一般性・抽象性については、例えば、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律案の審議において、次のような答弁がなされている。

この法案の対象となる団体といたしましては、事実上、今まで御指摘をいただいておりますオウム真理教のみが想定されると考えているわけでございますが、このオウム真理教というものを対象としているということを文章上、条文上明記するということは、憲法第14条第1項の保障する法のもとの平等に反するおそれもある、また、法の一般的、抽象的規範に反することにもなりますので、今回のような条文のとり方にならざるを得ない、こういうことになっております(第146回国会衆議院法務委員会(平成11年11月9日)臼井国務大臣答弁)。

こうした法の一般性・抽象性ということからすると、長の場合であっても、条例改正により給与を減額することは、本来であれば適当ではなく、その者に対する個別的な処分等によるべきということになる。
ところで、給与を返納しようとしようとする場合に、公職選挙法による寄附禁止規定に触れるということについては、国も同様であるが、国の場合は、次のように法律上措置されている*1

特別職の職員の給与に関する法律
附 則
4 当分の間、内閣総理大臣国務大臣内閣官房副長官、常勤の内閣総理大臣補佐官副大臣又は大臣政務官がこの法律の規定に基づいて支給された給与の一部に相当する額を国庫に返納する場合には、当該返納による国庫への寄附については、公職選挙法(昭和25年法律第100号)第199条の2の規定は、適用しない。

では、自治体の場合にどのように考えるべきかであるが、まず、議員の場合は、上記のとおり地方自治法第135条第1項があること等から、条例改正による報酬の減額はできないものと考えておきたい。これに対し、長の場合は、法令上懲罰について明記されていないこと、そして、不祥事により責任をとるのは、団体自体に不祥事があるので、その代表者として責任をとるということが通常であろうから、そうした事実も考慮して長の給与の額を決めているのだと言えば、明確に法の一般性・抽象性に反するとまではいえないので、違法とまではいえないのではないと一応考えることができるのではないだろうか。
しかし、不祥事による責任をとるために、給与を減額することは、そもそも法律上想定はしているとは考えられない。国の場合にしても、上記の特別職の職員の給与に関する法律附則第4項の規定は、昭和61年の同法の改正で追加されたものだが、不祥事による責任をとる場合にまでこの規定の適用を想定していたかは甚だ疑問である*2
このように、長に対して懲罰が法的に明記されていないのは、多分に性善説的な考え方が強いように感じる。立法的な手当てが必要な問題だと思う。
他方、退職手当を支給しないこととする場合には、例えば長なら長に対しては支給しないことにしてしまうのであればともかく、特定の者に限って支給しないようにするための条例改正を行うことは、本来であれば、退職手当の性格等も勘案して、慎重に決すべき問題なのであろう。しかし、実際には、給与を減額する場合よりも一層政策的な要素が強いであろうから、事務レベルで議論はできにくいだろうが。
ただ、退職手当の場合は、給与の場合と違って、それを返納しても、公職選挙法に基づく寄附禁止規定に違反しないこととなる場合もあるであろうから、自分がいらないということであれば、自ら返納するという方法も検討して対応すべきではないかと感じる。

*1:最近、タウンミーティングのやらせ質問に関して、安倍首相が首相給与を返納したりしているが、この規定があるから可能なのであろう。

*2:附則第4項が追加されたときの国会審議にはその理由に関する答弁は見当たらなかったが、法案の反対討論として、内藤功議員が「特別職給与改正法案中、秘書官の俸給引き上げのように、その俸給水準から見て改善が必要と思われる部分もありますが、全体としては、大臣、政務次官など一部高級公務員の俸給月額の大幅な引き上げであります。これは上厚下薄の職員給与体系を温存、補完するものであります。また、今日の国民生活の一般的水準、国民感情及び深刻な財政危機の現状等から見て、本改正案には反対するものであります。内閣総理大臣等の給与の一部返納の特例措置は、以上の批判や疑問にこたえるものではなく、こそくな方策であります。」と述べているが(第107回国会参議院内閣委員会昭和61年12月18日)、この記述からすると、むしろ財政事情等を考慮して返納する場合があることを想定していたのではないだろうか。