退職手当を支給しないこととする規定の書き方

長の退職手当を支給しないこととすることについては、以前、洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/)で議論されていたが、その適否についての考え方は、前回(「特別職の職員の給与等の減額等」)多少触れた。今回は、そのような判断がなされたということを前提にして、具体的にどのように書いていくかということについて記載してみたい。
以前、経過規定を書くときに、本則の書きぶりを意識して書くべきであると記載したことがあったが(「経過規定の書き方(その1)」)、今回も、それは同様である。そこで、具体的にある自治体の条例の規定を次に引用し、それをもとにして考えてみることにする*1

○○市常勤特別職職員の給料及び手当に関する条例
(市長等の給料及び手当)
第2条 市長、助役、収入役及び常勤の監査委員(以下「市長等」という。)に対しては、給料、地域手当、期末手当及び退職手当を支給する。
(退職手当)
第9条 市長等が退職した場合は、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に退職手当を支給する。
2 前項の退職手当の額は、退職の日におけるその者の給料の月額に市長等としての在職期間の月数(当該月数に1月未満の端数がある場合には、これを1月とする。)を乗じて得た額に、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める割合を乗じて得た額とする。
(1) 市長 100分の60
(2) 助役 100分の46
(3) 収入役 100分の23
(4) 常勤の監査委員 100分の16
3〜5 (略)

市長に対し退職手当を支給しないこととする場合には、通常は、その判断をした時に在職している市長自身が、自らの退職手当を受給しないこととするのであろう。そして、その内容としては、次のようにすることが考えられる。
(1) 自分は、何期市長をやろうとも、一切退職手当は受給しない。
(2) とりあえず、現在の任期中に係る退職手当は受給しない。
では、具体的にどのように書くかについてだが、いずれの場合も特定の者に係る特例を定めるわけだから、通常は附則で規定することになろう。
そして、まず(1)のケースについてだが、上記の条例であれば、次のような規定にすることが考えられる。

附 則
(平成○年○月○日において市長である者に対する退職手当の特例)
○ 平成○年○月○日において市長である者に対しては、第2条及び第9条第1項の規定にかかわらず、退職手当を支給しない。

(1)は支給そのものをしないわけだから、その根拠となっている第2条及び第9条第1項の特例となり、第2条が「○○に対しては、○○を支給する」という書き方であるため、「〜を支給しない」という書き方にするのは自然だろう。
しかし、第2条が、上記のような書き方ではなく、特別職の職員の給与に関する法律第2条*2を参考にした書き方になっていればちょっと話は変わってくる。同条を参考にしていれば、第2条は、次のような書きぶりになっているであろう。

(市長等の給料及び手当)
第2条 市長、助役、収入役及び常勤の監査委員(以下「市長等」という。)の受ける給与は、給料、地域手当、期末手当及び退職手当とする。

この場合には、第2条が「○○の受ける給与は、○○とする」という書き方なので、同条の特例*3として、上記のように「〜を支給しない」とはちょっと書き難い。私だったら、次のように、適用の読替えで書くのかなという感じがしている。

附 則
(平成○年○月○日において市長である者に対する退職手当の特例)
○ 平成○年○月○日において市長である者に対する第2条の規定の適用については、同条中「、期末手当及び退職手当」とあるのは、「及び期末手当」とする。

なお、いずれの書き方でも、平成○年○月○日に市長であった者は、市長の職を退いた後に再び市長となっても退職手当は支給されないので、それでもよいのか考えておく必要が出てくる。
次に(2)の場合である。第9条の規定によると、連続して数期勤めた場合には、最後の任期を終えたときにまとめて支給するというのが普通のように思われる*4。そうすると、現在の任期に係る在職期間は、退職手当の額の算定の基礎となる在職期間には含めないという考え方をとるのが普通ではないか。したがって、第9条第2項の在職期間の特例として考えることになり、具体的には大体次のように書くことになるのではないか。

附 則
(平成○年○月○日において市長である者に対する退職手当の特例)
○ 平成○年○月○日において市長であった者の在職期間には、×××は、算入しない。

この「×××」をどう書くかが結構難儀である。
「○○の任期」というようにすることも考えられるが、「任期」の意味は、次のとおりである。

  • その職に就いている一定の年限(『広辞苑(第五版)』)
  • 団体の役員や議員・委員など、その職務に在る期間があらかじめ決められている、その期間(『新明解国語辞典(第五版)』)

そうすると、「任期」というのはどちらかというと予定的なものであり、あくまでも結果である「在職期間」とはレベルが異なることになる。そのため、上記では「任期に係る在職期間」と書いてみたのだが、ではこの表現で良いのかと考えてみると、例えば任期半ばで退職したような場合を想定すると、あまり適当な表現とも思えない*5
いろいろ書き方はあるように思うが、今のところ、私は、期間を明示して書いたらどうかなという感じがしている。つまり、平成19年6月1日を基準日として、任期がその日から4年間だとすると、次のようになる。

附 則
(平成19年6月1日において市長である者に対する退職手当の特例)
○ 平成19年6月1日において市長であった者の在職期間には、同日から平成23年5月31日(同日前にその者が退職した場合にあっては、当該退職した日)までの期間は、算入しない。

*1:当該自治体のホームページによったが、引用した際には平成19年4月前の時点の内容であったため、そのまま転記している。

*2:特別職の職員の給与に関する法律第2条は、「前条第1号から第44号までに掲げる特別職の職員(以下「内閣総理大臣等」という。)の受ける給与は、別に法律で定めるもののほか、俸給、地域手当、通勤手当及び期末手当(国会議員から任命されたものにあつては俸給、地域手当及び期末手当、秘書官にあつては俸給、地域手当、住居手当、通勤手当、単身赴任手当、期末手当、勤勉手当及び寒冷地手当)とする。」とされている。

*3:この場合には、おそらく第9条第1項の書きぶりも変わってくると思うので、同項を考慮する必要はなくなると思われる。

*4:しかし、実際には任期ごとに支給している場合もあるだろうし、それも違法とまではいえないのであろう。ところで、上記の市の条例の第9条第3項は、「市長等の退職手当の支給は、任期ごとに行う。」と規定しており、そのことが明確だが、ここでは、当該規定はないものとする。

*5:したがって、注4で引用した第9条第3項の書き方も、意図はよく分かるのだが、任期半ばで退職した場合を想定すると、この書き方でいいのか疑問がある。