注と備考

今回は、様式における備考と注の使い分けについて記載する。当然ではなるが法律・政令には例がないので、省令等の例を取り上げる*1
前回、実際の用紙に書く必要があるかないかの違いだと言っていた人がいたということを記載したが、そのような意味合いで使っているものとして、公職選挙郵便規則(昭和25年郵政省令第4号)がある。
同省令の付録様式1の2には、「注」として「候補者は、上記の郵便局のほか、道府県選挙管理委員会の所在地の郵便物配達を受け持つ郵便局においても手持ちの通常葉書に表示を受けることができる。」とある。
同省令の付録様式3には「備考」があるが、同様式は郵便局へ選挙用の葉書と一緒に差し出す「選挙運動用通常葉書差出表」の様式であり、その裏面に「使用上の心得」があり、「備考」はその読み替えを次のように定めている。

都道府県の議会の議員、市長(特別区の区長を含む。)及び市の議会(特別区の議会を含む。)の議員の候補者の差出票については、この様式中「500通」とあるのは「200通」と、「1,000通」とあるのは「400通」とし、町村長及び町村の議会の議員の候補者の差出票については、この様式中「500通」とあるのは「100通」と、「1,000通」とあるのは「200通」とする。

付録様式3については、例えば都道府県の議会の議員の候補者の差出表における「使用上の心得」には、読み替えた後の記載をして、実際の用紙には、「備考」の記載はしないのであろう。そうすると、この省令は、実際の用紙に記載するのが「注」で、記載しないのが「備考」という区別をしているということができる。
また、捕虜資格認定審査規則(平成17年内閣府令第11号)は、別記様式の表に「注」として「不要の文字は横線で抹消して使用すること。」とあり、その裏に「備考」として「執行担当官は、法第121条第4項の規定により捕虜収容所長が指定した自衛官とする。」とある。公職選挙郵便規則ほど違いは明確ではないが、同じ説明はできると思う。
次に、前回、表では、表中の語句を定義するような場合には「注」を用い、それ以外の表全体の見方であるとか、適用する場合の留意事項などを記載する場合には「備考」を用いるのが原則ではないかと記したが、同様の用い方をしている例として、原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律施行規則(平成17年経済産業省令第82号)がある。同省令の様式第1の「注」と「備考」は、次のようになっている。

注 施行規則第6条第1項に基づく算定の式を記載するものとする。
備考 分割積立てを申請する場合は、施行規則第4条第2項の規定により申請を行って下さい。

この「注」は、様式中に「使用済燃料再処理等積立金の算定の基礎の概要」という欄があり、その欄に注記して*2、その項目の説明をしている。
同様の例として、登録認証機関等に関する規則(平成17年文部科学省令第37号)がある。同省令の様式第3の「注」と「備考」は、次のようになっている。

注1 「整理番号」 この欄には、記載しないこと。
2 「事業所等」 放射性同位元素装備機器の製造者等が当該機器を製造する場所又は輸入した放射性同位元素装備機器について検査する場所について記載すること。
3 「放射性同位元素の種類及び数量」 記載欄に記載しきれないときは、別の用紙に記載して添えること。
備考1 この用紙は、日本工業規格A4のつづり込式とすること。
2 氏名を記載し、押印することに代えて、署名することができる。

この「注」も、「整理番号」「事業所等」「放射性同位元素の種類及び数量様式中の項目」は様式にある欄で、それらに注記した上で*3、それらの説明をしている。
 なお、参考までに「注」と「備考」がともにある省令等で、おもしろいものを幾つか取り上げてみる。

○ 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行規則(昭和46年運輸省令第38号)の例

「用紙の大きさは、日本工業規格A列4番とすること。」という記載を、第1号の11様式の「海洋施設における焼却用」では「備考」とし、第1号の12様式では「注」としている。
第1号の12様式は様式そのものの中に備考欄を設けているので、「備考」が重なるのを嫌ったのではないかという感じがする(もちろん、他の例規では「備考」が重なっている例もある。)。

○ 割賦販売法施行規則(昭和36年通商産業省令第95号)の例

様式第3の「注」と「備考」は、次のようになっている。

(注)前払式割賦販売または前払式特定取引に係る繰延費用当期増加額×××千円同当期減少額×××千円である。
(備考)
1 経常収益および経常費用の計算には、前期損益修正その他通常の営業活動以外の原因により発生した特別の利益または損失の額は、これを除外すること。
2 割賦販売または前払式特定取引に係る未実現利益を貸借対照表の負債の部に計上している場合には、その当期増加額は、割賦未実現利益繰入または前払式特定取引未実現利益繰入としてこれを経常収益から控除し、当期減少額は、割賦未実現利益戻入または前払式特定取引未実現利益戻入としてこれを経常収益に加えて計算すること。
3 前払式割賦販売または前払式特定取引に係る繰延費用を貸借対照表の資産の部に計上している場合には、その繰延費用の当期増加額および当期減少額をそれぞれ区分して、注記欄に記載すること。
4 用紙の大きさは、日本工業規格A4とすること。

この「注」は、記載者自身が注記する欄であると思われるので、これまでみてきた様式の語句を説明するような「注」とは意味合いが違っている例である。

○ 武力攻撃事態等における安否情報の収集及び報告の方法並びに安否情報の照会及び回答の手続その他の必要な事項を定める省令(平成17年総務省令第44号)の例

安否情報収集様式(様式第1号・様式第2号)では「注」とし、それ以外の様式では「備考」としている。
安否情報収集様式は市町村が内部で使うものであり、それ以外の様式は自己以外の機関等にあてる報告等の様式であるという違いはあるが、なぜ、「注」と「備考」を使い分けたのかは、よく分からない。
以上幾つかみてきたが、「注」と「備考」の国語的な意味からすると、表と同様に、「注」は様式中の語句とか項目の定義をし、それ以外の用紙の大きさとか、別紙を用いてもいい旨などといったことについては「備考」を用いるのが原則ということもできるような感じもする。
しかし、様式は、住民が使用するものを定めることが多いと思うから、「注」とか「備考」のような表記の仕方が分かりやすさの点からどうかとも思う。なかには、「注」とか「備考」とか明記せずに記載している例や、「注」の代わりに「注意事項」「記載上の注意」「記載要領」としている例もあり、そうした例の方が、その記載の意味が明確になると思うので、そうした工夫は必要なのだろう。「注」などはです・ます体にしているものもあるが、それも使う側の立場に立った工夫の1つだと思う。

*1:省令は参考にすべきでないと言われるが、私はそうは思っていない。技術的な規定については、省令に参考とすべきものは結構ある。ただ、中には参考にすべきでない規定もあるというだけのことであって、要は、取捨選択すればいいだけのことである。

*2:様式中では「使用済燃料再処理等積立金の算定の基礎の概要(注)」とされている。

*3:様式中では「整理番号(注1)」「事業所等(注2)」「放射性同位元素の種類及び数量(注3)」とされている。