注と備考

「注」と「備考」については、前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』(P204)*1には、「表に(注)又は(備考)が付けられることがあるが、これらは、……表の中に用いられている語句の定義、……表を適用する場合の留意事項、細則等……を規定する場合に用いられる」と記載されているだけで、どういう場合に「注」を使い、どういう場合に「備考」を使うかは明確にされていない。以前、様式に関して、どちらがどうだったか覚えていないが、実際の用紙に書く必要があるかないかの違いだと言っていた人がいた。しかし、これは、表の場合には当然当てはまらない。
そこで、どういう場合に「注」を使い、どういう場合に「備考」を使うかについて、表と様式に分けて考えてみたい。今回は、表についてである。
まず、国語的な意味をみると、「注」については、次のようにされている。

  • 本文の間に書き入れて、その意義を説明すること。(『広辞苑(第5版)』)
  • 分かりにくい言葉の下に書き入れたりして、その読みや意味などを説明したりする言葉・文。(『新明解国語辞典(第5版)』)

「備考」については、次のようにされている。

  • 付記して本文の不足を補うこと。また、その記事。(『広辞苑(第5版)』)
  • 参考として、書き添えること(事柄)。(『新明解国語辞典(第5版)』)

実際に「注」と「備考」の両方を用いている例として、所得税法(昭和40年法律第33号)の別表第2の給与所得の源泉徴収税額表(月額表)のそれらを次に掲げる*2

(注) この表における用語については、次に定めるところによる。
(一) 「扶養親族等」とは、控除対象配偶者及び扶養親族をいう。
(二) (略)
(備考) 税額の求め方は、次のとおりである。
(一) 給与所得者の扶養控除等申告書の提出があつた居住者については、
(1) まず、その居住者のその月の給与等の金額から、その給与等の金額から控除される社会保険料等の金額を控除した金額を求める。
(2) 当該申告書により申告された扶養親族等の数が7人以下である場合には、(1)により求めた金額に応じて「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄の該当する行を求め、その行とその申告された扶養親族等の数に応じて求めた甲欄の該当欄との交わるところに記載されている金額が、その求める税額である。
(3) 当該申告書により申告された扶養親族等の数が7人を超える場合には、(1)により求めた金額に応じて、扶養親族等の数が7人であるものとして(2)により求めた税額から、扶養親族等の数が7人を超える1人ごとに1,580円を控除した金額が、その求める税額である。
(4) (2)及び(3)の場合において、当該申告書にその居住者が障害者、寡婦寡夫又は勤労学生に該当する旨の記載があるとき(当該勤労学生が第2条第1項第32号ロ又はハ(定義)に掲げる者に該当するときは、当該申告書に勤労学生に該当する旨の記載があるほか、第194条第3項(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する書類の提出又は提示があつたとき)は、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、当該申告書にその居住者の扶養親族等のうちに障害者がある旨の記載があるときは、扶養親族等の数にその障害者1人につき1人を加算した数を、それぞれ(2)及び(3)の扶養親族等の数とする。
(二) (略)

これらからすると、表中の語句を定義するような場合には「注」を用い、それ以外の表全体の見方であるとか、適用する場合の留意事項などを記載する場合には「備考」を用いるということになろうか。
ただ、実際には厳密に区別はされておらず、どちらかというと、「備考」の方が好んで使われている傾向があるような感じがする。例えば、道路交通法施行令昭和35年政令第270号)の別表第1には、次のような「備考」がある。

備考
一 放置違反金の額は、この表の上欄に掲げる放置車両の態様の区分及びこの表の中欄に掲げる放置車両の種類に応じ、この表の下欄に掲げる金額とする。
二 この表の放置車両の種類の欄に掲げる用語の意義は、それぞれ次に定めるところによる。
1 「大型車」とは、大型自動車大型特殊自動車及び重被牽(けん)引車をいう。
2 「普通車」とは、普通自動車をいう。
3 「二輪車」とは、大型自動二輪車及び普通自動二輪車をいう。
4 「原付車」とは、小型特殊自動車及び原動機付自転車をいう。

上記の考え方からすると、この備考の第1号は「備考」でもいいのだろうか、第2号は「注」とすべきことになる。
しかし、実際には、上記の考え方によったとしても判断に迷うこともあるだろうし、そんなことで時間を使うのもどうかと思うので、「備考」が多いのなら原則として「備考」を用いるように考えてしまうのが現実的なのかもしれない。

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P230)もほぼ同様

*2:近年の新設法令だと、株式会社日本政策金融公庫法別表第2なども「注」と「備考」の両方が用いられている。