一部改正における法制執務のルールに関する雑感

法令の一部改正は、数多いルールにしたがって行っていく。そして、そのルールはありとあらゆる場面で決められているように思いがちであるが、決してそのようなことはない。そのルールをすべて決めることはとても合理的だとは思えないし、そもそも不可能であろう。したがって、担当者によってその手法が多少異なってくるのは当然のことであろう。林修三『法令作成の常識』のはしがきには、「立法上の約束とか技術というものは、ものによっては画一的でなく、多少のヴァリエーションは許される」と書かれているし、さらに、前田正道『ワークブック法制執務(全訂版)』のはしがき*1には、「各設問に対する答えについては、そのすべてが内閣法制局の公的見解であるわけではもとよりない」と書かれているのも、そのことを示していると思う。
ただ、一部改正の場合、改め文のみが正式な文書であるわけだから、それを見た人にとってどのように改正されるのか(溶け込んでいくのか)疑義が生じないようにすることは当然として、その範囲でできるだけ分かりやすくする必要がある。したがって、この分かりやすさという観点から改善していくことは、疑義が生じない限り認められるし、適当ということになろう*2
例えば、本則の末尾に条を追加する場合、「本則に次の○条を加える。」という方法と「第×条*3の次に次の○条を加える。」という方法が考えられる。
これについて、林修三『法令作成の常識』(P94)では、前者は本則と附則が通し条名で、新しい条がそのどちらに入るか分かり難い場合に用いるのだとされているので、後者を原則と考えているようである。これに対し、前田正道『ワークブック法制執務(全訂版)』(P411〜)*4では、その2つの方法があるとされているだけで、どちらが原則であるとは記載されていない。
しかし、現在は、ほとんど前者によっているように思う。その理由について、私は、末章の条が1条だけの場合で、その末条である条を繰り下げた上でその前後に条を加えるときを考えた場合、前者の方が分かりやすいということがあるのではないかと感じている。例えば、末章である第5章にある条が第20条で、それを第21条に繰り下げた上で、その前後に1条ずつ加える場合には、後者の方法によると次のようになるであろう。

第20条の次に次の1条を加える。
第22条 (略)
第20条を第21条とし、第5章中同条の前に次の1条を加える。
第20条 (略)

この場合、第20条の次に1条を加えるとして、第22条を書かざるを得ず、やや分かりにくい面がないとはいえない。
これに対し、前者の方法を使えば次のようになるので、すっきりとして分かりやすくなる。

第20条を第21条とし、第5章中同条の前に次の1条を加える。
第20条 (略)
本則に次の1条を加える。
第22条 (略)

このほかにも、従来は、一部改正の方法としていくつも選択肢があったのだけれど、ある特定の事案に関して分かりにくいケースが生じたときに、より分かりやすい方をルールとしていったということもあるのではないかと思う。したがって、分かりやすさということも人によって考え方が違う面があるので、一般的に用いられているルールに関してもローカルルールが生じるのだろうし、生じてもよいのであろう。
ただ、そうしたローカルルールを設けるとしても、おのずと限度があるであろう。
例えば、一般的に用いられているルールとして次のようなものがある。

1 移動する条等に語句の改正がある場合には、語句の改正を行ってから条等の移動をする。
2 例えば、第2条を第3条とし、第3条を第2条とする場合には、「第2条を第3条とし、第3条を第2条とする」とはしない。

1の場合は、この例外を認めると、改正の内容に疑義が生じることがあるので、それは認められないということになろう。
2の場合は、「第2条を第3条とし、第3条を第2条とする」とすると、「第2条を第3条とし」の時点で第3条が2つあるように見えるため、分かりやすさという点では問題がある。しかし、このような方法をとったとしても改正の内容に疑義が生じることはないので、今後、何か合理的な理由があれば例外を認める余地はあり得るように思う。
結局、法制執務のルールは、それほど融通の利かないものと考える必要はないのではないだろうか。ただ、決められているルールを用いないこととする場合には、それが用いられている理由をよく考えてみる必要はあるのだろう。

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』のはしがきにも同様の記載あり。

*2:分かりさすさ突き詰めたものが、新旧対象表方式と言えるだろう。私は、新旧対照表方式を採っている自治体の方式を十分承知していないが、完全に疑義が生じることがないかというと、やや疑問を感じている。

*3:改正前の末条

*4:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P465〜)も同様