「当該各号」と書く場合の用語の使い方あれこれ

細かい用語の使い方について、どのように使うのか悩むことがある。しかし、所管している省庁の法令ごとに微妙に異なっていたりすることもあり、どれくらいこだわるかは程度問題の部分もあると思う。そのような例として、前の各号という用語を受けて「当該各号」と書く場合の前後の用語等をどのように用いるかというものがある。
前の各号という用語を受けて「当該各号」と書く場合としてよく見られるのは、次のとおり施行期日と定義規定を各号で書く場合である。

○ この法律は、平成○年○月○日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、(それぞれ)当該各号に定める日から施行する。
○ この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、(それぞれ)当該各号に定めるところによる。

いずれの場合も、法令では「当該各号」の前に「それぞれ」と書く例と書かない例がある。所管省庁による違いということで言うと、法務省所管の法令は書くが、旧自治省所管の法令では書いていないような感じである*1。田島信威『最新法令用語の基礎知識(改訂版)』(P34)では、このように用いる「当該」という言葉の意味は「それぞれ対応する」という意味であるとしているが、そのように考えるのであれば、「それぞれ」は不要なのであろう。例えば、次に掲げる沖縄振興特別措置法施行令第38条のような例がある。

沖縄振興特別措置法施行令(平成14年政令第102号)
(国の負担又は補助の割合の特例等)
第38条 法第105条第1項に規定する政令で定める事業は、別表第1に掲げる事業とし、同項に規定する政令で定める割合は、当該事業につきそれぞれ同表に掲げる割合とする。この場合において、これらの事業のうち別表第2に掲げるもの(沖縄県が行うものを除く。)に要する経費に係る沖縄県の負担又は補助の割合は、それぞれ同表に掲げる割合とする。
2〜6 (略)
7 法第105条第8項ただし書の政令で定める場合は次の各号に掲げる場合とし、同項ただし書の政令で定める額は当該各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める額とする。
(1)〜(3) (略)

第1項では「それぞれ同表」として「それぞれ」を書き、第7項では「当該各号」として「それぞれ」を書いていない。これは、第1項では別表第1に掲げている事業にそれぞれ対応するというニュアンスを出す必要があるので「それぞれ」と書く必要があるのに対し、第7項では「当該」という用語がそのような意味を持っているので「それぞれ」と書いていないのだと考えることができると思う。
また、次の会社更生法のような例もある。

会社更生法(平成14年法律第154号)
(更生債権者等の議決権)
第136条 更生債権者等は、その有する更生債権等につき、次の各号に掲げる債権の区分に従い、それぞれ当該各号に定める金額に応じて、議決権を有する。
(1)〜(4) (略)
2・3  (略)
(認否書の作成及び提出)
第146条 管財人は、第138条第1項に規定する債権届出期間内に届出があった更生債権等について、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める事項についての認否を記載した認否書を作成しなければならない。
(1)・(2) (略)
2〜5  (略)

第136条第1項では「それぞれ当該各号」として「それぞれ」を書き、第146条第1項では「当該各号」として「それぞれ」を書いていない。これは、「当該」という用語は「それぞれ対応する」という意味を持っていないと考えているのであろうが、後者は、「当該各号」の直前が「区分に応じ」となっているため、そこで「それに対応する」というニュアンスが含まれているので「それぞれ」を省略しているのであろうか。そのように考えると、「当該」という用語は「それぞれ対応する」という意味を持っていると考えれば、前者も「それぞれ」を省略してよいことになる。
また、上記の例で、第136条第1項は「区分に従い」とし、第146条第1項は「区分に応じ」としている。これは、第136条第1項を「区分に応じ」とすると「応じ〜応じて〜」となってしまうので、それが嫌だったのではないかというような感じがする。そのように考えると、会社更生法は「区分に応じ」と書くのを原則としていることになる。事実、感覚としては「区分に応じ」としている例の方が多いように思う。これに対し、建築基準法は、統一して「区分に従い」としているようであるし、行政手続法第13条第1項も「区分に従い」としている。これについては、「当該」という用語は「それぞれ対応する」という意味があると考えると、「応じ」がダブルことになるので「区分に従い」とした方がいいであろうし、そのような意味を持っていないと考えれば上記のとおり「区分に応じ」でもいいということになるのであろうか。*2
最後に、次の例のように「次の各号に掲げる‥‥(について)は」と記載した各号を受けた「当該各号に定める」の前に、「当該各号に掲げる区分に応じ」と書くかどうかについてである。

阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(平成7年法律第16号)
(警察施設の復旧に要する経費の補助)
第3条 阪神・淡路大震災に伴い被害を受けた兵庫県の区域内における警察施設であって次の各号に掲げるものの復旧に要する経費については、国は、予算の範囲内において、兵庫県に対し、当該各号に掲げる警察施設の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める割合により算定した額に相当する額を補助する。
(1)・(2) (略)

上記の沖縄振興特別措置法施行令第38条第7項も同様の例である。しかし、これも「当該」を「それぞれ対応する」という意味で使うのであれば、次の例のように書く必要はないだろう。

使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号)
再資源化等に係る料金の公表等)
第34条 自動車製造業者等は、主務省令で定めるところにより、自らが製造等をした自動車に係る次の各号に掲げる再資源化等について、これを販売する時までに、当該各号に定める料金を定め、これを公表しなければならない。
(1)〜(3) (略)
2 (略)

法令の下請けの例規を作成する場合には、その法令の表記を参考にするだろうから、例規によって用語の用い方が区々になることは仕方ないであろう。しかし、同一の例規の中でそれが区々になるのは適当でないので、オリジナルの例規を作成するときのために、細かいことであっても自分なりの基準を持つことは大切ではないかと思う。

*1:早坂剛『条例立案者のための法制執務』(P95)では「それぞれ」は不要としているが、氏は旧自治省出身である。

*2:余談だが、会社更生法第136条第1項は「更生債権等につき」とし、同法第146条第1項は「更生債権等について」となっているが、これは第136条第1項を「ついて」とすると、「ついて〜応じて」と「て」がダブルので、語感が悪くなるからではないだろうか。