薬害肝炎に関する救済法案に関する雑感(追記)

2007年12月29日付けの記事で、薬害肝炎に関する救済法案について取り上げたので、多少フォローしていきたいと思います。
なお、同記事で、本件について取り上げているブログについて記していますが、その時点でbewaadさんも次のとおり取り上げておられるので、参考までに記しておきます。
 ・ http://bewaad.com/2007/12/23/371/http://bewaad.com/2007/12/26/374/
○ 法律の内容
薬害肝炎に関する救済法案は、1月8日衆議院可決、同月11日参議院可決、成立したが、その内容は次のとおり。

特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第?因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法案
フィブリノゲン製剤及び血液凝固第?因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入し、多くの方々が感染するという薬害事件が起き、感染被害者及びその遺族の方々は、長期にわたり、肉体的、精神的苦痛を強いられている。
政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。さらに、今回の事件の反省を踏まえ、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力をしなければならない。
もとより、医薬品を供給する企業には、製品の安全性の確保等について最善の努力を尽くす責任があり、本件においては、そのような企業の責任が問われるものである。
C型肝炎ウイルスの感染被害を受けた方々からフィブリノゲン製剤及び血液凝固第?因子製剤の製造等を行った企業及び国に対し、損害賠償を求める訴訟が提起されたが、これまでの五つの地方裁判所の判決においては、企業及び国が責任を負うべき期間等について判断が分かれ、現行法制の下で法的責任の存否を争う訴訟による解決を図ろうとすれば、さらに長期間を要することが見込まれている。
一般に、血液製剤は適切に使用されれば人命を救うために不可欠の製剤であるが、フィブリノゲン製剤及び血液凝固第?因子製剤によってC型肝炎ウイルスに感染した方々が、日々、症状の重篤化に対する不安を抱えながら生活を営んでいるという困難な状況に思いをいたすと、我らは、人道的観点から、早急に感染被害者の方々を投与の時期を問わず一律に救済しなければならないと考える。しかしながら、現行法制の下でこれらの製剤による感染被害者の方々の一律救済の要請にこたえるには、司法上も行政上も限界があることから、立法による解決を図ることとし、この法律を制定する。
(趣旨)
第1条 この法律は、特定C型肝炎ウイルス感染者及びその相続人に対する給付金の支給に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第2条 この法律において「特定フィブリノゲン製剤」とは、乾燥人フィブリノゲンのみを有効成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。
(1) 昭和39年6月9日、同年10月24日又は昭和51年4月30日に薬事法の一部を改正する法律(昭和54年法律第56号)による改正前の薬事法昭和35年法律第145号。以下「昭和54年改正前の薬事法」という。)第14条第1項の規定による承認を受けた製剤
(2) 昭和62年4月30日に薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律(平成5年法律第27号)第1条の規定による改正前の薬事法(以下「平成5年改正前の薬事法」という。)第14条第1項の規定による承認を受けた製剤(ウイルスを不活化するために加熱処理のみを行ったものに限る。)
2 この法律において「特定血液凝固第?因子製剤」とは、乾燥人血液凝固第?因子複合体を有効成分とする製剤であって、次に掲げるものをいう。
(1) 昭和47年4月22日又は昭和51年12月27日に昭和54年改正前の薬事法第14条第1項(昭和54年改正前の薬事法第23条において準用する場合を含む。)の規定による承認を受けた製剤
(2) 昭和60年12月17日に平成5年改正前の薬事法第23条において準用する平成5年改正前の薬事法第14条第1項の規定による承認を受けた製剤(ウイルスを不活化するために加熱処理のみを行ったものに限る。)
3 この法律において「特定C型肝炎ウイルス感染者」とは、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第?因子製剤の投与(獲得性の傷病に係る投与に限る。第5条第2号において同じ。)を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染した者及びその者の胎内又は産道においてC型肝炎ウイルスに感染した者をいう。
(給付金の支給)
第3条 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という。)は、特定C型肝炎ウイルス感染者(特定C型肝炎ウイルス感染者がこの法律の施行前に死亡している場合にあっては、その相続人)に対し、その者の請求に基づき、医療、健康管理等に係る経済的負担を含む健康被害の救済を図るためのものとして給付金を支給する。
2 給付金の支給を受ける権利を有する者が死亡した場合においてその者がその死亡前に給付金の支給の請求をしていなかったとき(特定C型肝炎ウイルス感染者が慢性C型肝炎の進行により死亡した場合を含む。)は、その者の相続人は、自己の名で、その者の給付金の支給を請求することができる。
3 給付金の支給を受けることができる同順位の相続人が2人以上あるときは、その1人がした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その1人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす。
(給付金の支給手続)
第4条 給付金の支給の請求をするには、当該請求をする者又はその被相続人が特定C型肝炎ウイルス感染者であること及びその者が第6条第1号、第2号又は第3号に該当する者であることを証する確定判決又は和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するもの(当該訴え等の相手方に国が含まれているものに限る。)の正本又は謄本を提出しなければならない。 
(給付金の請求期限)
第5条 給付金の支給の請求は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに行わなければならない。
(1) この法律の施行の日から起算して5年を経過する日(次号において「経過日」という。)
(2) 特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第?因子製剤の投与を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染したことを原因とする損害賠償についての訴えの提起又は和解若しくは調停の申立て(その相手方に国が含まれているものに限る。)を経過日以前にした場合における当該損害賠償についての判決が確定した日又は和解若しくは調停が成立した日から起算して1月を経過する日 
(給付金の額)
第6条 給付金の額は、次の各号に掲げる特定C型肝炎ウイルス感染者の区分に応じ、当該各号に定める額とする。
(1) 慢性C型肝炎が進行して、肝硬変若しくは肝がんに罹(り)患し、又は死亡した者 4,000万円 
(2) 慢性C型肝炎に罹患した者 2,000万円 
(3) 前2号に掲げる者以外の者 1,200万円 
(追加給付金の支給)
第7条 機構は、給付金の支給を受けた特定C型肝炎ウイルス感染者であって、身体的状況が悪化したため、当該給付金の支給を受けた日から起算して10年以内に新たに前条第1号又は第2号に該当するに至ったものに対し、その者の請求に基づき、医療、健康管理等に係る経済的負担を含む健康被害の救済を図るためのものとして追加給付金を支給する。
2 第3条第2項及び第3項の規定は、追加給付金の支給について準用する。 
(追加給付金の支給手続)
第8条 追加給付金の支給の請求をするには、特定C型肝炎ウイルス感染者の身体的状況が悪化したため新たに第6条第1号又は第2号に該当するに至ったことを証明する医師の診断書を提出しなければならない。
(追加給付金の請求期限)
第9条 追加給付金の支給の請求は、特定C型肝炎ウイルス感染者の身体的状況が悪化したため新たに第6条第1号又は第2号に該当するに至ったことを知った日から起算して3年以内に行わなければならない。
(追加給付金の額)
第10条 追加給付金の額は、特定C型肝炎ウイルス感染者が新たに該当するに至った第6条第1号又は第2号の区分に応じ、当該各号に定める額から第3条第1項の規定により支給された給付金の額(既に追加給付金が支給された場合にあっては、同項の規定により支給された給付金の額と第7条第1項の規定により支給された追加給付金の額の合計額)を控除した額とする。
(損害賠償がされた場合等の調整)
第11条 給付金又は追加給付金(以下「給付金等」という。)の支給を受ける権利を有する者に対し、同一の事由について、国又は製造業者等(特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第?因子製剤について昭和54年改正前の薬事法第14条第1項(昭和54年改正前の薬事法第23条において準用する場合を含む。)若しくは平成5年改正前の薬事法第14条第1項(平成5年改正前の薬事法第23条において準用する場合を含む。)の規定による承認を受けた者又はその者の業務を承継した者をいう。以下同じ。)により損害のてん補がされた場合においては、機構は、その価額の限度において給付金等を支給する義務を免れる。
2 国又は製造業者等が国家賠償法(昭和22年法律第125号)、民法明治29年法律第89号)その他の法律による損害賠償の責任を負う場合において、機構がこの法律による給付金等を支給したときは、同一の事由については、国又は製造業者等は、その価額の限度においてその損害賠償の責任を免れる。 
(非課税)
第12条 租税その他の公課は、給付金等を標準として、課することができない。 
(不正利得の徴収)
第13条 偽りその他不正の手段により給付金等の支給を受けた者があるときは、機構は、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた給付金等の額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。 
(特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金
第14条 機構は、給付金等の支給及びこれに附帯する業務(以下「給付金支給等業務」という。)に要する費用(給付金支給等業務の執行に要する費用を含む。以下同じ。)に充てるため、特定C型肝炎ウイルス感染者救済基金(次項において「基金」という。)を設ける。2 基金は、次条の規定により交付された資金及び第17条第2項の規定により納付された拠出金をもって充てるものとする。 
交付金
第15条 政府は、予算の範囲内において、機構に対し、給付金支給等業務に要する費用に充てるための資金を交付するものとする。 
厚生労働大臣と製造業者等との協議)
第16条 厚生労働大臣は、給付金支給等業務に要する費用の負担の方法及び割合について、製造業者等と協議の上、その同意を得て、あらかじめ基準を定めるものとする。 
(拠出金)
第17条 機構は、給付金等を支給したときは、給付金支給等業務に要する費用に充てるため、当該支給について特定C型肝炎ウイルス感染者が投与を受けたものとされた特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第?因子製剤に係る製造業者等に、前条の基準に基づき、拠出金の拠出を求めるものとする。
2 製造業者等は、前項の規定により拠出金の拠出を求められたときは、機構に対し拠出金を納付するものとする。
厚生労働省令への委任)
第18条 この法律に定めるもののほか、給付金等の支給の請求の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、厚生労働省令で定める。
附 則 
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から施行する。
(特定フィブリノゲン製剤等の納入医療機関の公表等)
第2条 政府は、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第?因子製剤が納入された医療機関の名称等を公表すること等により、医療機関による当該製剤の投与を受けた者の確認を促進し、当該製剤の投与を受けた者に肝炎ウイルス検査を受けることを勧奨するよう努めるとともに、給付金等の請求手続、請求期限等のこの法律の内容について国民に周知を図るものとする。
(給付金等の請求期限の検討)
第3条 給付金等の請求期限については、この法律の施行後における給付金等の支給の請求の状況を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。
C型肝炎ウイルスの感染被害者に対する支援等)
第4条 政府は、C型肝炎ウイルスの感染被害者が安心して暮らせるよう、肝炎医療の提供体制の整備、肝炎医療に係る研究の推進等必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構法の一部改正)
第5条 (略)
衆議院ホームページ、http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

給付金の支給に関する例規については、あまり承知もしていないのだが、とりあえず気になった点を記しておくことにする。
 ・ 前文
形式的な部分で気になるところは幾つかあるが、政治的な意図が大きいのであろうから、とりあえず触れないこととする。
 ・ 第3条
第1項と第2項がすっきり読めない。この書き方だと、給付金の支給の根拠はあくまでも第1項であり、第2項は特定の場合における請求の特例を書いているのではないかと思うが、そうすると、同項に規定する場合に該当するときは、請求は相続人が自己の名で行うが、支給は第1項の規定によりあくまでも死亡した感染者に対して行うということになってしまう。私は、民事法の一般論に照らして語れる程の知識はないのでこれ以上のコメントはできないのだが、このような扱いが一般的なのかどうか、また法律の施行前に死亡している場合には、直接相続人に支給されることと比較して適当なのかといったことが気になる。
また、第2項で「特定C型肝炎ウイルス感染者が慢性C型肝炎の進行により死亡した場合を含む」としている部分がよく分からない。書く意味がある場合としては、例えば第6条第2号に該当する者であるとして感染者本人が請求をしていたのだが、給付金が支給される前に死亡して同条第1号に該当することとなった場合くらいしか思い浮かばないのだが、そうだとすると、既に給付金が支給された場合には第7条の請求となって、新たに同号に該当することとなったことを証する書類は医師の診断書でいいのに(第8条)、給付金が支給されていない場合には第3条の請求となって、確定判決の正本等が改めて必要になってしまう(第4条)というように、形式的には不合理なことになる。
このように複雑な書き方をしなければいけないのは、感染者が死亡した場合のことを踏まえなければいけないこともさることながら、給付金と追加給付金とをあくまでも別物としていることも大きな原因になっているのではないかという感じがする。追加給付金については、第7条の手続を用意することなく、改めて第3条の請求ができることとして、後は給付金を支給済みの場合の額の調整と請求期限の特例を書けば足りるようにも思う。もちろん、諸々の事情からそのように書けないのかもしれないけれど。
 ・ 第4条
私は司法制度についてもいろいろ言うことができる知識を持ち合わせてはいないのだが、被害者の認定を裁判所に行わせるという報道を聞いたときには、そのための手続も新しく作るのかなというイメージを持っていたが、そうではないらしい。まだ訴えの提起等をしていない者も含めて、すべて和解することを前提にしているということなのか。何となくすっきりしない。
形式的には、見出しと内容に若干齟齬があるように思う。内容は、支給手続というよりも請求手続であろう。そして、書きぶりをこのままにするなら、見出しは「(確定判決等の正本又は謄本の提出)」のような感じにした方が適当だろうし、確定判決等の写しを添付書類と扱ってよいなら、見出しを「(給付金の請求手続)」として「給付金の支給の請求は、請求書に、当該請求をする者……の正本又は謄本(その他厚生労働省令で定める書類)を添付してしなければならない」というような書き方ができると思う。
 ・ 附則第4条
本来なら本則で書く規定ではないかと思うが、法案の趣旨から書き難いので、附則で書いたというところなのだろうか。もし、基本法とセットで成立させるつもりなら、書かなかったのではないかと思う。
○ その他
一般対策の法案の取扱いについて、新聞記事のみ次に引用しておく。

・ 薬害肝炎被害者の救済問題で与野党は7日、「感染被害者救済給付金支給法案」を9日にも成立させる方針で合意する一方、薬害に限らず、肝炎患者を広く救済する一般対策の法制化は、与党の「肝炎対策基本法案」、民主党の対案「特定肝炎対策緊急措置法案」とも継続審議とすることで折り合った。民主党が自らの独自案にこだわったうえ、08年度政府予算案にインターフェロン治療(IF)を受ける患者への助成費が盛り込まれたために与党も「基本法案の早期成立は不要」と判断したことが背景にある。しかし両案の隔たりは大きく、次期通常国会で議論が再燃することは必至だ。IFは月ごとの自己負担額が8万円程度と高額で、治療を要するB、C型肝炎を発症した患者は約60万人いるのに、IF治療を受けている人は約5万人に過ぎない。
政府・与党は自己負担額を1万〜5万円に抑える助成策を打ち出し、08年度予算案に129億円を計上した。その代わり基本法案では治療費助成の理念を記すだけにとどめ、具体的な助成額には触れなかった。
これに対し、民主党の緊急措置法案は、IFの自己負担を月0〜2万円にすると明記し、肝炎が悪化して起きる肝硬変、肝がんなどへの医療費助成も早急に検討する、としている。民主党の厚労委理事らは「肝硬変や肝がんが含まれない与党案では救済範囲が限定され、09年度の保証もない」と主張。被害者救済法案を民主党の緊急措置法案とセットで成立させるよう求めた。
だが、同党の山岡賢次国対委員長らは、セットでの成立にこだわって被害者救済法案の成立がずれ込めば、「国民の批判が民主党に向き、与党の思うつぼ」と判断し、両法案を切り離す方針を取った。被害者救済法案を成立させる一方で一般対策は妥協せず、独自法案を掲げて「幅広い患者の救済」をアピールするのが狙いだ。
対する与党も、主導した被害者救済法案さえ成立させれば、国民の理解を得られると踏んだ。自民党は7日、基本法案にも「国の責任において、一律救済のみちを開いた」との一文を加える修正案を了承したが、IFへの助成費が08年度予算案に計上されている以上、基本法案を現在、無理して成立させる必要はないというのが本音だ。与野党の利害が一致し、一般対策の法制化は先送りされた。
毎日新聞2008年1月7日配信
・ 肝炎をめぐっては、薬害以外を感染原因を含むB、C型感染者の治療助成を柱とする法案も、与党と民主党それぞれから出されているが、助成額などで折り合いが付かず継続審議となった。(産経新聞2008年1月11日配信