期限の延長

今月18日に召集される通常国会の焦点は、3月末に期限切れとなる歳入関連法案の扱いだとされている。その中でも、ガソリン税暫定税率維持を含む租税特別措置法の改正法案が注目を集めるのであろう。
このガソリン税暫定税率は、租特法第89条第2項が根拠となっているが、関係規定は次のようになっている。

租税特別措置法
揮発油税及び地方道路税の税率の特例)
第89条 (略)
2 平成5年12月1日から平成20年3月31日までの間に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は、揮発油税法第9条及び地方道路税法第4条の規定にかかわらず、揮発油1キロリットルにつき、揮発油税にあつては4万8,600円の税率により計算した金額とし、地方道路税にあつては5,200円の税率により計算した金額とする。
3〜6 (略)
揮発油税法
(税率)
第9条 揮発油税の税率は、揮発油1キロリットルにつき2万4,300百円とする。
地方道路税
(税率)
第4条 地方道路税の税率は、揮発油1キロリットルにつき4,400円とする。

現行の租特法第89条第2項は平成5年法律第10号により追加されたものであり、その際の特例期間は平成5年12月1日から平成10年3月31日までであったが、2度*1にわたって延長し、平成20年3月31日までとなっている。今回も、通常であれば、特例期間の終期のみを改めることとして、3月末までに成立するように審議するということになるのであろうが、成立したとしても4月以降となる可能性がある。その場合、つまり平成20年4月1日から一定の期間空白が生じた場合に、改正後の租特法の規定は、どのようになっていなければいけないのであろうか。
既に期限が経過した後にその規定の効力を延長する方法としては、上田章『議員立法五十五年』(P58〜)に次の記載がある。

医師等の免許及び試験の特例に関する法律(昭和28年法律第192号)
第1条 昭和20年8月15日以前から引き続きソビエト社会主義共和国連邦樺太、千島、北緯38度以北の朝鮮、関東州、満州又は中国本土の地域内に在って、昭和28年3月23日以後に引き揚げた者(以下「引揚者」という。)であって、医師法(昭和23年法律第201号)第36条第3項の規定に該当するものに対する医師免許及び試験については、昭和30年12月31日まで、なお同法同条同項の例によることができる。
この規定は、いうまでもなく昭和30年12月31日をすぎると実効性を失うこととなるけれども、この期限経過後にこの規定の効力を延ばしたいという要請に対してどう対処したらよいかというのが、この問題のポイントであります。
この場合、(1)としては「昭和30年12月31日」とあるところを、たとえば「昭和34年12月31日」と改正してよいか。
(2)は、期限がすぎており、第1条の規定は死文化しているから、(1)のような改正はすべきではなくて、別の新しい条文を新設すべきではないか。
(3)は、(2)の場合、現在の第1条は死文化しているから、この第1条を全文改正して(もとの条文は結果的に削除されることになる)、新しい条文を規定してよいか。
この3つの方法がありますが、なるほどこの第1条は昭和30年12月31日をすぎれば適用されない死文かもしれないが、医師等の免許および試験の特例に関する法律そのものは廃止されない限り、厳然として存在するし、第1条を改正する(1)の方法をとってもよいのではないかと考えられる。しかし鮫島部長は(2)の考え方に立って、さらに(3)のような考え方ではなくて、新規条文を起こしてもとの第1条は削除しない。すなわち、新たに第1条の2として、もとの第1条と同様の条文を書き、ただ「昭和30年12月31日」とあるところだけ「昭和34年12月31日」と変えればよい、これが鮫島部長の回答であります。
したがってこの条文を次に書きますと、
医師等の免許及び試験の特例に関する法律の一部を改正する法律(昭和31年法律第178号)
医師等の免許及び試験の特例に関する法律(昭和28年法律第192号)の一部を次のように改正する。
第1条の次に次の1条を加える。
第1条の2 引揚者であって、医師法第36条第3項又は第4項の規定に該当するものに対する医師免許及び試験については、昭和34年12月31日まで、なお同法同条同項の例によることができる。(以下略)
「昭和30年12月31日」を「昭和34年12月31日」に改めるというようにしないで、その期限がすぎているから第1条の2を新たにおこすべきであるという解決方法が鮫島部長から教えられたところであり、このような形で法律改正を行ったところであります。
このように、条文の期日が規定されておって、その期日がすぎたあとで期日前と同じような内容を期日後に規定するときには新しく条文をおこせ、というのが鮫島さんから教わった大原則でありますが、その後の立法例をみますといろいろあります。今のように免許および試験の特例といった権利設定という規定であれば、昭和30年、期限の切れたその期限のところを直すだけですませた立法例もありますが、その期限が罰則を伴うような場合であれば、やはり問題があるのではないか。

今回の租特法の場合も基本的には同様に考えていいのであろうが、同法第89条第2項は、上記の例と異なり特例期間の始期が書かれているため、上記の(3)や始期も併せて改めるのであれば(1)のような方法をとってもいいのではないかとも思える。
では、政府として更に10年間延長する法案を提出するとした場合に、どのような形にすべきかである。
オーソドックスに考えると、次のように従来の延長と同様の形の法案を提出して、仮に成立が4月以降になった場合には、国会において所要の修正をしてもらうということになるように思われる。

<例1>*2
租税特別措置法の一部を改正する法律案
租税特別措置法昭和32年法律第26号)の一部を次のように改正する。
第89条第2項中「平成20年3月31日」を「平成30年3月31日」に改める。
附 則
この法律は、平成20年4月1日から施行する。

次に、国会での修正が不要なように案文を作れないかであるが、理屈上は、施行日が平成20年4月2日以降になる場合に限り、改正規定を書き換えることとすることが考えられる。このような書き方をした例として、次のようなものがある。

防衛庁設置法等の一部を改正する法律(平成18年法律第118号)
附 則
国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部改正)
第52条 国と民間企業との間の人事交流に関する法律(平成11年法律第224号)の一部を次のように改正する。
第24条の見出し中「防衛庁」を「防衛省」に改め、同条第一項中……に改める。
国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第53条 この法律の施行の日が国と民間企業との間の人事交流に関する法律の一部を改正する法律(平成18年法律第79号)の施行の日前である場合には、前条のうち国と民間企業との間の人事交流に関する法律第24条の改正規定中「第24条」とあるのは、「第23条」とする。

これを参考にすると、具体的な案文は次のようになるのであろうか。

<例2>
租税特別措置法の一部を改正する法律案
租税特別措置法昭和32年法律第26号)の一部を次のように改正する。
第89条第2項中「平成5年12月1日から平成20年3月31日」を「平成20年4月1日から平成30年3月31日」に改める。*3
附 則
(施行期日)
1 この法律は、平成20年4月1日又はこの法律の公布の日の翌日*4のいずれか遅い日から施行する。
(経過措置)
2 この法律の施行の日が平成20年4月2日以後である場合には、第89条第2項の改正規定中「平成5年12月1日」とあるのは、「租税特別措置法の一部を改正する法律(平成20年法律第 号)の施行の日」とする。*5

これだと、本則の規定に「租税特別措置法の一部を改正する法律(平成20年法律第 号)の施行の日」と出てくることがあるので、それを嫌うのであれば、次のように特例期間の始期を書かないこととすることが考えられる。

<例3>
租税特別措置法の一部を改正する法律案
租税特別措置法昭和32年法律第26号)の一部を次のように改正する。
第89条第2項を次のように改める。*6
2 平成30年3月31日までに揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は、揮発油税法第9条及び地方道路税法第4条の規定にかかわらず、揮発油1キロリットルにつき、揮発油税にあつては4万8,600円の税率により計算した金額とし、地方道路税にあつては5,200円の税率により計算した金額とする。
附 則
この法律は、平成20年4月1日又はこの法律の公布の日の翌日のいずれか遅い日から施行する。

いずれにしろ、技術的には可能であろうが、つまらない点で議論になっても面白くないだろうから、オーソドックスな形になるのだろうか。
<追記>2008.1.12
 アップ後に気になったのだが、上記の例2、例3だと、改正前の規定に関する経過規定を置くべきなのかもしれないので、その辺りは、また考えてみたいと思います。もちろん、前掲書引用の(2)の形で書けば、その必要はないのだが。

*1:平成10年法律第23号、平成15年法律第8号

*2:便宜上、ガソリン税暫定税率の期間延長の改正しかないものとする。例2、例3も同じ。

*3:現行の租特法には、第89条第1項に昭和54年6月1日から平成5年11月30日までの間の特例を定める規定が残っているため、実際にはこの規定を削る等の整理が併せて必要になってくると思われるが、複雑になるので省略する。なお、例3も同様である。

*4:「公布の日の翌日」とするのは、4月1日が公布日の場合には、4月1日の官報が閲覧できる最初の場所に官報が到達した時点からの施行になってしまい、支障があると思われるためである。

*5:本則の改正規定は、「平成20年3月31日」を「平成30年3月31日」に改めるだけとして、施行日が平成20年4月2日以後の場合には「平成5年12月1日」の部分も改めることとする改正規定とする方法も当然あり得る。

*6:前掲書の(2)のように、3項として追加することも考えられるが、そうすると、2項と書きぶりが異なってしまうという問題がある。