いわゆる「ブリッジ法案」について

この3月末に期限切れを迎える揮発油税に関する暫定税率の期限を5月末まで延長する「ブリッジ法案」については、結局取り下げられたのだが、「奇策」という言い方で批判的な論調が目立つ。
個人的には、これも一つの方法であり、この法案を出したことだけを捉えて批判することはどうかという感じがするのであるが、結局一般には理解されにくいということなのであろう。
自治体においては、議会の会期が短期間であるところがほとんどであるため、今回のようなケースが起こることはあまり想定できないのであろうが、場合によっては、あらゆるケースを想定し、立法技術を駆使して条例の立案をする必要が生じることもないとはいえない。しかし、そのような条例は、通常は説明をするのも大変であるし、一般的には理解し難く、受け入れられにくいということも事実であろう。
ただ、特殊な立法技術を覚えると、やはり使ってみたくなるものである。例えば、次のように略称に「甲」「乙」を用いた規定がある。

雇用保険法施行令
(延長給付に関する調整)
第8条 法第28条第1項に規定する延長給付のうちいずれかの延長給付を受けていた受給資格者が、当該延長給付(以下この条において「甲延長給付」という。)が終わり、又は行われなくなつた後甲延長給付以外の延長給付(訓練延長給付(法第24条第1項の規定による基本手当の支給に限る。次項において同じ。)を除く。以下この条において「乙延長給付」という。)を受ける場合には、その者の法第24条第2項に規定する受給期間(次項において「受給期間」という。)は、乙延長給付に係る延長日数(次の各号に掲げる延長給付の種類に応じ、当該各号に定める日数をいう。次項において同じ。)を当該受給資格に係る離職の日の翌日から甲延長給付が終わつた日まで又は行われなくなつた日の前日までの期間(その終わつた日又はその行われなくなつた日の前日が法第20条第1項及び第2項の規定による期間の最後の日(次項において「満了日」という。)以前の日であるときは、同条第1項及び第2項の規定による期間)に加えた期間とする。
(各号略)
2 前項の場合において、受給資格者が、法第28条第2項の規定により乙延長給付が行われる間行わないものとされた甲延長給付(訓練延長給付を除く。以下この項において同じ。)を乙延長給付が終わつた後受けることとなつたときは、その者の受給期間は、甲延長給付に係る延長日数(乙延長給付が初めて行われることとなつた日が満了日の翌日後であるときは、甲延長給付が行われることとなつた日(その日が満了日以前の日であるときは、満了日の翌日)から初めて乙延長給付が行われることとなつた日の前日までの日数を差し引いた日数)をその者の受給資格に係る離職の日の翌日から乙延長給付が終わつた日(乙延長給付が終わつた後さらに他の同条第1項に規定する延長給付が行われる場合その他の厚生労働省令で定める場合には、厚生労働省令で定める日。以下この項において同じ。)までの期間(乙延長給付が終わつた日が満了日以前の日であるときは、法第20条第1項及び第2項の規定による期間)に加えた期間とし、当該受給期間(その者の受給資格に係る離職の日の翌日から乙延長給付が終わつた日までの期間を除く。)内の失業している日(法第15条第2項に規定する失業の認定を受けた日に限る。)について基本手当を支給する日数は、甲延長給付に係る法の規定による基本手当を支給する日数から既に甲延長給付の対象となつた日数を差し引いた日数に相当する日数とする。
3 (略)

これも特殊な立法技術と言えるだろうが、この方法を知った内閣法制局の参事官が法律の立案に使おうとしたが、担当部長に別の書き方ができると反対されたので法律では使わなかったが、政令で使ったというようなことが書かれていた文献を見たことがあるが、やはり特殊な立法技術を知ると使いたくなるものだが、一般的には違和感があり、あまり受け入れられないということなのだろう。
もちろん、選択肢としては多いことに越したことはないのであり、そういう意味では特殊な立法技術を知っていることは大切だが、できる限り用いないようにすることが適当なのであろう。知っているけれど使わないのと、知らないから使えないというのでは意味はまったく違うのである。
なお、「ブリッジ法」について説明した文献で、私が唯一見たことがあるものには、次のように記載されている。

ブリッジ法は、複数の分野にまたがるような問題に対処するため、現行の法制度を前提としつつ、それを有機的に結び付けたり、その運用のあり方などについて規定することで、総合的な対応や施策が行われることなどを求めるものであり、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者の支援等に関する法律(平成17年法律第124号)などがその例といえる。これらの法律は、必ずしもプログラム規定だけからなるというわけではなく、また、基本法のように指導法として関連法律との関係で実質的に上位に位置づけられるものではないが、法制度の整備が進み、その問題にかかわる各種制度が各法分野で規定されているような場合に、既存の法体系を維持しつつ、それらの運用や活用について横断的なかたちで規定し、その適切な運用や施策の連携・総合化などを図る一つの手法として、注目される。
特に、児童虐待防止法については、主に罰則を伴わない義務規定や責務規定、解釈運用規定などによって構成され、当初は児童虐待等について児童福祉法の適切な運用を求めた厚生省通達を条文化したものといった批判などもみられたが、法的な効力というより、その啓発的な意義や実際上の効果は大きく、関係機関の対応を促すきっかけとなったことについてはそれなりに評価されているところである。(川崎政司「基本法再考(5)」『自治研究(第82巻)』)

今回用いられている意味とは、違うような感じがする。