公共施設への広告掲出に関する料金

大分前になるがkei-zuさん(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20080130)が紹介されていた、横浜市広告事業推進担当『財源は自ら稼ぐ!』を読んでみたが、私は、同書68頁において公共施設への広告掲出について次のように法的な整理をしている部分に一番興味を引かれた。

行政財産への私権設定等の制限は、あくまで当該財産の使用を妨げるような行為を規制する趣旨であり、それに直接関係する物理的な広告物の設置等に関しては目的外使用許可の原則に従うが、財産の本来的な使用に影響を及ぼさない付随的な無体財産権、広告の場合は「広告価値を利用する権利(広告権と言えるであろうか)」のようなものは、当該行政財産とは一体をなすものではなく、行政財産ではない(広告権は法的に確定した権利ではないので普通財産でもないと考えられる)無形の財産として、別途一般私法の適用のもとに処分可能であると解している。
よって、広告価値の対価については、私法上の契約によって、市場価値に基づいて定めた広告料をいただき、それとは別に、実際に広告物を設置するという行為に関しては、法の規定どおり目的外使用許可等を行い、その対価としての使用料等を徴収するという、2段階の仕組みを取っている(広告価値が使用料等を下回るような場合は、広告料はいただかず、原則的な部分である使用料等のみ徴収する)。

横浜市では、ネーミングライツでも同様な考え方をしており、広告事業全体で一貫した考え方をとっている。
そして、同様の考え方をとっている自治体の例として、次のとおり北海道の例がある。

北海道広告取扱要綱
(広告掲載料の徴収)
第14条 広告主から徴収する広告掲載料の基準となる額は、類似の取引事例を勘案の上、部長等が事前に定めるものとする。
2 広告掲載料は、広告掲載に当たり、行政財産の目的外使用の許可において、行政財産使用料条例に定める使用料を徴収する場合においても、別に徴収するものとする。
3 広告掲載料は、広告掲載に当たり、屋外広告物条例に定める許可申請における申請手数料を徴収する場合においても、別に徴収するものとする。
北海道行政財産使用料条例
(土地の使用料)
第2条 土地の使用許可に係る使用料は、当該土地の時価に100分の4(当該土地の使用許可期間が1月に満たない場合にあっては、100分の4.2)を乗じて得た額(電柱等の支持物のための土地の使用にあっては、別表第1に定める額)をその年額とする。
(建物の使用料)
第3条 建物の使用許可に係る使用料は、次の各号の規定によって算出された額の合計額に100分の105を乗じて得た額(人の居住のための建物の使用(使用許可期間が1月に満たない場合を除く。)にあっては、次の各号の規定によって算出された額の合計額)に当該使用許可面積を当該建物の延べ面積で除して得た数(小数点以下5位の数は、四捨五入する。)を乗じて得た額をその年額とする。
(1) 当該建物の時価に100分の4を乗じて得た額
(2) 当該建物の複成価格の100分の80に相当する額を別表第2に定める耐用年数で除して得た額
(3) 当該建物の占める土地の時価に100分の4を乗じて得た額(当該土地が通常の賃借料を負担する借地の場合にあっては、当該土地の部分の賃借料の年額)
2 前項の規定にかかわらず、建物の壁面、天井裏等に簡易型携帯電話基地局その他これに類するものを設置する場合における建物の使用許可に係る使用料は、1箇所当たり年額1,500円とする。
(土地及び建物以外の行政財産の使用料)
第4条 土地及び建物以外の行政財産の使用許可に係る使用料は、前2条の規定に準じて算定した額とする。

このような方法も1つの考え方であろうが、公共施設への広告掲出それだけについて考えてみると、行政財産の目的外使用としての使用料一本で整理するということの方が普通に感じられる。しかし、その場合には、自治体としてはできるだけ高い額としたいであろうから、条例では白紙に近い委任をする必要が生じてきてしまう。
そもそも、なぜ使用料に関する事項が条例事項とされているかについて、碓井光明『要説自治体財政・財務法(改訂版)』(P148)には、次のように記載されている。

住民の権利義務に関しては条例で、営造物に関しては規則でという振り分けがなされ(市制12条)、営造物の利用が利用者の完全な自由意思によるものでなく、生活上の需要を満たすためその利用を余儀なくされるものにあっては、条例をもって定めるべきであるとされた。そして、使用料・手数料に関する条例主義の規定は、公法的性質のものに限るものであって、私法上の契約による反対給付は、あえて条例の定めを要するものではないとされた。

なお、前掲書(P148)は、今日の使用料は、利用を余儀なくされるものに限定されているとは言い難く、その意味で自治法は利用を余儀なくされるか否かにかかわりなく、条例主義で割り切っているものと理解してよいとしているが、これらのことからすると、利用を余儀なくされるものでなければ、委任の範囲を広く考えてよいと言えるのではないだろうか。
では、具体的にどの程度まで委任してよいかだが、行政財産の目的外使用に係る使用料について、前掲書(P150〜)には次のように記載されている。

行政財産の目的外使用に係る使用料について、条例の規定をみてみよう。
「東京都行政財産使用料条例」第2条は、「使用料は、1月当りの額により算出するものとし、その額は、財産の種類及び使用の状況に応じ、次の各号に定めるところによる」として、算定方法を規定している。しかし基礎になるのは、「土地の適正な価格」とか、「建物の適正な価格」のような不確定のものである。大阪府の「行政財産使用料条例」は、使用料の額について、「行政財産の価額、使用する部分の所在する場所その他の事情を勘案して知事が定める基準に基づき、当該行政財産の管理者が定める額とする」(3条)と定めるにとどまる。公の施設の使用料に関する定め方との間には大きな違いがある。
これは、多様な行政財産のうちから散発的に出てくる目的外使用について、予め条例で、例えば定額で規定しておくことは、技術的にきわめて難しく、かつ意味がないことによる。東京都の条例第2条に定める方式は、現在考えられる最善のやり方であり、自治法228条1項に違反しないと考えてよい。
さらに、行政財産の目的外使用について、公の施設の使用料と同じ位置づけで規定した自治法の立法態度そのものが、適当であるとは思われない。おそらく、行政財産→公物→公法関係という図式において、公の施設の使用料と同列に扱ったものと思われるが、管理権の側面では同じであっても、使用の実態は、むしろ、個別的契約による使用関係に近いのであるから、使用料の金額は、適正な範囲内で、個別的合意によって決定することを許容してもよいと思われる。「許可」という文言を使用することには、あえて反対しないが、使用料の完全な一方的決定ということは、立法論として、見直すべきである。

上記のとおり、碓井教授は、行政財産の目的外使用に係る使用料の場合、通常の公の施設の使用料とは定め方が異なるので、条例で定額を定める必要はないとされているが、その定め方は、広告掲出による場合の方が一層異なるものであるだろう。そうすると、上限等を決めることなく、例えば大阪府のような形で委任しても問題はないと思うし、実際に訴訟等を想定する必要もないであろう。
ちなみに、その大阪府では、平成20年2月14日から28日まで、パスポートセンター内における壁面等へのポスターの広告掲出と企業パンフレットの設置をしてもらえる広告主の募集をしていたが、後者は広告料としているのに対し、前者は使用料としている。