条例の施行期日を長以外の執行機関に委任することに関するメモ

条例の施行期日を長以外の執行機関に委任することの可否については、以前考えさせられることがあったのですが、最近、洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/)で関連した事項が取り上げられていたのを拝見したので、今考えていることをメモとして記載しておくことにします。
条例の施行期日を長以外の執行機関に委任することの可否を考える契機となったのは、いわゆる個人情報保護条例の実施機関に行政委員会を加える改正を行ったときに、その委員会から、他の自治体で行っている例もあるので、施行期日の定めをその委員会に委任する形にできないのか相談があったことである。
結局、最終的には条例で確定した期日を書くことになったのだが、相談があったときには、次の理由により反対した。

  1. 個人情報保護条例の実施機関となり得る執行機関には、規則制定権を有していない機関もあるが、仮にそのような機関に条例の施行期日の定めを委任した場合に、その施行期日を告示等の形式で定めることが適切かどうか疑義があったこと。
  2. 個人情報保護条例の主管は長であることを考えると、施行期日の定めを執行機関に委任するのであれば、長に委任すべきであると思われること。

そして、当時は、個人情報保護条例以外であっても、条例案の議会の提案や条例の公布を長が行うことからすると、条例の施行期日を委任する場合には、原則として長(規則)にすべきなのではないかと漠然と考えていた。
しかし、現在は、多少考え方が異なっている。
まず、法律の場合であるが、施行期日が下位法令に委任されるときには、専ら政令に対して委任されるのであって、省令に対して委任されることはない。この理由は、推測ではあるが、林修三『法令作成の常識』(P190)に、法律の施行期日を定める規定の形式の一つとして「一段下位の政令にその定めを委任するもの……がある」といった記述があるが、これは、できるだけ上位の命令で定めるべきであるということにすぎないからではないかという感じがする。そうすると、法律の場合は、政令以外に省令等で定めなければならないことなどはおよそ考えられない。
そうすると、自治体において条例の施行期日の定めを委任する場合に、その一段下位の例規は長の規則であるから、原則としては長の規則で定めるべきということは一応言えると思う。
しかし、条例の場合には、法律と違って、長以外の執行機関に委任せざるを得ないような場合もあるのではないだろうか。
例えば、教育機関の設置条例について、施行期日の定めを教育委員会に委任する例がある。この場合には、教育委員会所管事務の条例の立案についても教育委員会に補助執行せずに長が行うこととしているのであればともかく、教育機関の設置等が教育委員会の権限とされている以上(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第23条第1号)、長の特定の部署がその条例の施行期日を定める規則の立案事務を行うことは、現実問題として難しいように思う*1
したがって、このような場合には、条例の施行期日の定めを長以外の執行機関に委任することも認められてよいのではないかと思っている。
なお、上田章・笠井真一『条例規則の読み方・つくり方(第2次改定版)』(P28〜)では、「条例の実施準備等を考えて、長その他の執行機関に施行期日の決定を委ねる場合がある」として、次の例を記載している。

この条例の施行期日は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において、人事委員会が定める。

*1:形式だけ長の規則にするというのであれば、事務委任規則で条例の立案と併せて当該条例の施行期日を定める規則の立案を委任しておくことも考えられるが、あまり現実的とは思えない。