設置の根拠が法令にある機関を引用する際に、当該法令の規定を引用する必要があるのか

設置の根拠が法令にある自治体の機関を引用する場合に、当該法令の規定を引用しているものとそうでないものがある。例えば、次の規定のように、児童相談所については、法令の規定が引用されていないが、知的障害者更生相談所については、知的障害者福祉法の規定が引用されている。

障害者自立支援法
(支給要否決定等)
第22条 (略)
2 市町村は、支給要否決定を行うに当たって必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、市町村審査会又は……知的障害者福祉法第9条第5項に規定する知的障害者更生相談所……若しくは児童相談所……その他厚生労働省令で定める機関の意見を聴くことができる。
3〜5 (略)

これは、その機関が法令の規定でどのように規定されているかということと関係しているように思う。そしてそれは、必置規制が緩和されているかどうかといった問題である。
必置規制については、宇賀克也『地方自治法解説(第2版)』(P99)で次のように記載されている。

特定の業務を処理するために行政機関等の設置についての規制が必要とされる場合であっても、住民サービスの提供体制の一元化・総合化と職員配置の効率化を促進するためには、地方公共団体が、その実情に応じて関連する業務を担う行政機関等を統合することもできるように、可能な限り、その規制の弾力化を図る必要がある。そこで、法令で名称が定められていることが自主的な組織編成の障害となることがないように、法令における組織の名称は、「○○に関する事務所」、「○○のための施設」等と規定することを原則とすることになった。

児童相談所児童福祉法により、知的障害者更生相談所は知的障害者福祉法により、ともに都道府県に必置の機関となっている。
そして、児童相談所は、「○○に関する事務所」というようには規定されておらず、その引用をする際にも、単に「児童相談所」と規定することになる。
これに対し知的障害者更生相談所については、知的障害者福祉法において、次のように「知的障害者の更生援護に関する相談所」と規定されている。

知的障害者福祉法
(更生援護の実施者)
第9条 (略)
2〜4 (略)
5 その設置する福祉事務所(社会福祉法(昭和26年法律第45号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)に知的障害者の福祉に関する事務をつかさどる職員(以下「知的障害者福祉司」という。)を置いていない市町村の長及び福祉事務所を設置していない町村の長は、前項第3号に掲げる業務のうち専門的な知識及び技術を必要とするもの(次条第2項及び第3項において「専門的相談指導」という。)であつて18歳以上の知的障害者に係るものについては、知的障害者の更生援護に関する相談所(以下「知的障害者更生相談所」という。)の技術的援助及び助言を求めなければならない。
6   (略)
知的障害者更生相談所)
第12条 都道府県は、知的障害者更生相談所を設けなければならない。
2〜4 (略)

このように法令の規定が「○○に関する事務所」といったように規定され、その略称が置かれている場合、一般的にその略称が組織の名称として通用し、その略称を引用する場合には、その略称を規定している規定を引用するということになる。
ただし、都道府県においては、知的障害者更生相談所の設置条例において、その機関を「知的障害者更生相談所」とした場合に、当該都道府県の例規においてその知的障害者更生相談所を規定する場合には、特に法令等の規定を引用することなく、単に「知的障害者更生相談所」と規定することになろう。
なお、同様に法令に基づく組織でも、福祉事務所を引用する場合には、上記の知的障害者福祉法第9条第5項にように「社会福祉法(昭和26年法律第45号)に定める福祉に関する事務所」という形で引用し、これを「福祉事務所」と略称を置くのが一般的のようである。これは、社会福祉法において、福祉事務所については第3章において規定しているが、同法では特に「福祉事務所」という略称を置いていないという法令の規定の仕方によるのではないだろうか。