「その次に次のように加える」

所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号)
租税特別措置法の一部改正)
第5条 租税特別措置法昭和32年法律第26号)の一部を次のように改正する。
   (略)
第41条の2第2項第12号を同項第13号とし、同項第11号ニ中「イからハまで」を「イからチまで」に改め、同号ニを同号リとし、同号ハ中「イ及びロ」を「イからトまで」に改め、同号ハを同号チとし、同号ロ中「イに」を「イからヘまでに」に改め、同号ロを同号トとし、同号イ中「場合」の下に「(イからニまでに掲げる場合を除く。)」を加え、同号イを同号ホとし、その次に次のように加える。 
ヘ (略)
第41条の2第2項第11号にイからニまでとして次のように加える。
イ〜ニ (略)

このゴシックの部分について、tihoujitiさん(http://d.hatena.ne.jp/tihoujiti/20090707)が「『同号ホの次に次のように加える』ではダメなんだろうか」と書かれたことについて、次のとおりコメントを記載させていただきました。

上記のようにする*1と、改正前の「同号イ」を指すことになるか疑義が生じるからではないでしょうか。旧版のワークブックP349〜350の記述が参考になると思います。

分かりにくかったので、ここで少し詳しく説明することにします。
改め文において改正部分を特定するための条項等を引用する場合には、改正前のそれを引用するのが原則である。次のとおり前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』(P344〜、説明部分がP349〜)には、そのことが記載されている。

第19条の次に次の1節、章名及び6条を加える。
第2節 指定保証機関 
(第51条から第64条まで 略)   
第6章 監督 
(第65条から第70条まで 略)
第19条の見出し中「掲示」を「掲示等」に改め、同条に次の1項を加え、同条を第50条とする。  
(略)

「第19条の次に次の1節、章名及び6条を加える」として、条文として第51条から第70条までが加えられており、その次に、第19条の一部改正と、同条を第50条とする条の繰下げが行われている点である。 
この一連の改正について、まず第19条の一部改正と、同条を第50条とする条の繰下げを行った後、「第50条の次に次の1節、章名及び6条を加える」として第51条から第70条までを加える改正をしないのであろうか。思うに、第19条が第50条になるのは、当該一部改正法が施行されて初めて条の移動が行われるのであるから、施行前は飽くまで第19条であり、したがって、現在の条名を指して、その次に加えるとすべきであるとの考えによるのであろう。…… 
ところで、「第22条の4を第75条とし、同条の次に次の1条を加える」とする改正部分がある。この場合は、改められた条名の次に新たに1条を加えるとはしているが、新条名と現条名との関係を直接示した部分と一体と成って改正文が示されているので、現在の条名を指してその次に加えるとするのと同視できる点で、前述した第19条の次に第51条以下を加えるとするか、繰下げの行われた後の第50条の次に第51条以下を加えるとするかの場合とは異なるのである。

ちなみに新版のワークブックには、この記載はない。それは、現在ではこのような改正方法はとらず、次のようにされるからではないだろうか。

第19条の見出し中「掲示」を「掲示等」に改め、同条に次の1項を加える。
(略)
第19条を第50条とし、同条の次に次の1節、章名及び6条を加える。    
第2節 指定保証機関 
(第51条から第64条まで 略)   
第6章 監督 
(第65条から第70条まで 略)

しかし、この考え方は、現在でも変わっていないと思う。そして、ワークブックが繰下げの行われた後の第50条の次に第51条以下を加えるとはしないとしているのは、次のような方法はとらないという趣旨なのではないかと思う。

第19条の見出し中「掲示」を「掲示等」に改め、同条に次の1項を加え、同条を第50条とする。  
(略)
第50条の次に次の1節、章名及び6条を加える。    
第2節 指定保証機関 
(第51条から第64条まで 略)   
第6章 監督 
(第65条から第70条まで 略)

このような形で「第50条の次に次の1節、章名及び6条を加える」としないのは、ワークブックでは、第19条が第50条になるのは、施行されてからであり、それまでは飽くまで第19条であるから「第50条……」と表記するのは適当でないとしている。
では、なぜこのような方法がとられないのかというと、引用する条項等が改正前のものなのか、改正後のものなのか疑義が生じることを避けるためではないかと思う。上記の例によると、「第50条」とした場合、改正前の第50条を指すのか、改正後に第50条となる改正前の第19条を指すのか疑義が生じるからである。
このことを、上記の租税特別措置法の例で考えてみる。改正前の租税特別措置法第41条の2第11号は号の細分としてイからニまでがあるのだが、改正後は同号をイからリまでとする改正をしているのであるが、この事例では、改正前に同号ホはなかったわけだから、「その次に次のように加える」を「同号ホの次に次のように加える」としても、実際には疑義が生じることはない。
しかし、同号にイからホまであった場合で、同様の改正を行う場合は、少し事情が異なる。例えば、次のような改め文を想定してみる。

第41条の2第2項……第11号ホ中……に改め、同号ホを同号ヌとし、同号ニ中……に改め、同号ニを同号リとし、同号ハ中……に改め、同号ハを同号チとし、同号ロを同号トとし、同号イ中……を加え、同号イを同号ホとし、その次に次のように加える
ヘ (略)
第41条の2第2項第11号にイからニまでとして次のように加える。
イ〜ニ (略)

この場合は、「その次に次のように加える」を「同号ホの次に次のように加える」とすると、この「同号ホ」が改正前の同号イを当然指すのだと考えるのはいささか乱暴であり、一応疑義が生じることになる。このようなことを避けるため、「その次に次のように加える」としているのではないかと思うのである。
そして、この考え方は、条項の字句の改正と移動を行う場合には、必ず前者を先にして、後者はその後にするのだという考えにも通じているのではないだろうか。
なお、上記のワークブック記載のとおり、「第22条の4を第75条とし、同条の次に次の1条を加える」という改め文であれば、第75条となる第22条の4の次に1条を加えるのだということは明確であり、上記のような疑義が生じないため、このような表記は許されるということになる。
(参考)類似記事

*1:「同号ホの次に次のように加える」とすること。