飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について〜最高裁判決が出された事例(下)

高裁判決が本件の懲戒免職処分を取り消す判断をしたのは、「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について〜最高裁判決が出された事例(上)」及び「同(中)」の1及び2に記載した事情が大きい理由なのではないかと、私は感じている。これら以外にも、高裁判決は、処分を否定的に判断するに至った理由をいくつか述べているのだが、それは見方を変えると処分を肯定する理由にもなり得るものが多い。
例えば、2009年3月13日付け記事「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について(3)」で、私は第一審で被処分者が管理職であったことについて何ら触れていないことを批判的に取り上げたが、高裁判決ではこのことを次のように評価している。

……非管理職の職員と比較すれば、その責任が重いことは否定できないが、管理職であっても課長にとどまることや直接飲酒運転を取り締まったり、交通安全運動を主催したりする部署に所属していたわけではないことなどからすれば、被控訴人が課長職にあった点を殊更重視するのは相当でない。

しかし、これは既に裁判所は処分取消という判断をすることを前提とした上での評価なのではないだろうか。つまり、被処分者がどのような職にあったかということは、判決に直接的に影響してはいないということである。少なくとも私は、自治体における課長職は、通常その職場のほとんどの事項の決裁権を有しており、相当重いポストだと思う。
さらに、高裁判決には、次のような記載がある。

100名を超える加西市民から嘆願書が提出されていることなどからも、公務員への信頼という観点からして地域社会に与えた悪影響も多大とまではいえないと考えられる。

被処分者が処分取消を求める際には、大抵嘆願書を集めるので、この手の判決等で触れられることも多いのであるが、処分を維持する判断が前提となっていれば、署名は求められれば内容をあまり確認せずにしてしまうものであるので、あまり意味がないと結論付けることになる。
では、上記の1及び2についてどのように考えるかであるが、いずれも今回の事案に特有のことといえるのではないだろうか。
1については、処分者の主張の適否の問題ではないかと感じることについては既に記載したとおりであるが、それ以前に、そもそも他の自治体等における処分例と比較することが適当なのか私は疑問に感じるのである。
2については、処分者の懲戒処分の指針における悪質な交通法規違反に対する標準処分例が減給又は戒告とされていることが、軽過ぎるのではないかという感じもする。そうすると、これを重くすることで、均衡を図ることが可能になる。
いずれにしろ、失礼を承知であえていうと、処分者の主張は、やや雑であってのではないかという印象をどうしても持ってしまうのである。個人的には、判決文を見る限り、処分を維持すべきと感じられる事案であるだけに、何となく残念な感じがするのである。