罰則規定の表記(上)

罰則規定の表記に当たっては、犯罪の構成要件を明確に表示するようにしなければならないとされる。例えば、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P238〜)では、次のように記載されている。

罰則には、よく、「第○条の規定に違反した者」を処罰する旨定めるが、第○条に該当する実体規定の書き方いかんによっては、第○条の規定に違反するということの意味が判然としないこともある。昭和56年法律第65号による改正前の外国為替及び外国貿易管理法第51条は、「通商産業大臣は、特に緊急の必要があると認めるときは、命令で定めるところにより、1月以内の期限を限り、品目又は仕向地を指定し、貨物の船積を差し止めることができる」旨を定め、同法第70条において、「第51条の規定に違反した者」を処罰する旨を定めていたが(第19号)、この両者を併せ読んでみると、どのような行為を処罰する趣旨であるのか明確ではない。緊急の必要がないのに貨物の船積みを差し止めた場合の通商産業大臣を処罰する規定であるともとり得るのである。このような場合には、「第51条の規定による差止めに違反して貨物を船積みした者」を処罰するように表現すべきである。義務規定と処罰規定との両者を設ける方法をとる多くの行政法規については、両者を併せ読んでみて、犯罪の構成要件が不明確でないかを注意すべきである。

さらに、田島信威『立法技術入門講座2法令の仕組みと作り方』には、次のように記載されている。

(第一種電気通信事業の許可)
第9条 第一種電気通信事業を営もうとする者は、郵政大臣の許可を受けなければならない。
 ……(略)……
第100条 第9条第1項の規定に違反して第一種電気通信事業を営んだ者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
電気通信事業法

電気通信事業法第100条は、第一種電気通信事業の無許可営業の罰則を定めているが、何故「第9条第1項の規定に違反した者」と規定しないで、わざわざ、「第9条第1項の規定に違反して第一種電気通信事業を営んだ者」と規定したのであろうか。仮りに、同法第9条第1項が「第一種電気通信事業は、郵政大臣の許可を受けなければ営んではならない」と規定されていたならば、単に「第9条第1項の規定に違反した者」と規定しても不明確ということはないといえる。しかし、同法第9条第1項は、第一種電気通信事業の無許可営業を、いわば、正面から禁止した規定というよりも、むしろ、第一種電気通信事業の許可を手続の面から規定したものと理解される。したがって、同法第100条は、「第9条第1項の規定に違反して第一種電気通信事業を営んだ者」と規定することによって、解釈上の疑問を残さぬよう、第一種電気通信事業の無許可営業の禁止をより明確にしたのである。

理屈としてはこのとおりなのだろうが、実際に書こうとすると結構悩むものである。したがって、法律の規定例をよく参照して、それを真似て書くというのが現実的な方法になってくるだろう。
しかし、同様の内容を規定するのに、表記が異なっている例もある。そこで、そのような例について、次回に取り上げることにしたい。