A条例と旧A条例の一部を改正する場合の条例の題名

以前、洋々亭さんのサイトで、「A条例」と「○○条例××条の規定によりなお効力を有することとされる同条例による改正前のA条例(以下「旧A条例」といいます。)」の2条例の一部を改正する場合の条例の題名をどのようにすべきか議論されていました。投稿された方は、「A条例及び○○条例による改正前のA条例の一部を改正する条例」という題名とするよう決められたようです。それも一つの考え方だと思いますが、私は、今のところ単に「A条例の一部を改正する条例」でよいのではないかと考えています。
そこで、私がそのように考える理由を、その方が上記の結論に至った理由も踏まえて記載してみることにします。
私が「A条例の一部を改正する条例」でよいと考える理由は、旧A条例もA条例であることには変わりがないということに尽きる。
同じ法律ではあるが題名が違うものを一つの法律で改正する例としては、2006年11月3日付け記事「二段ロケット方式における題名の改正」でも取り上げたのだが、次のようなものがある。

環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律の一部を改正する法律(平成12年法律第39号) 
環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律の一部改正)
第1条 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律昭和32年法律第164号)の一部を次のように改正する。  
題名を次のように改める。    
環境衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律
   (略)
(環境衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律の一部改正)
第2条 環境衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律の一部を次のように改正する。
   (略)

この法律は、改正されている法律の題名だけを見ると、第2条で改正されているのは、「環境衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律」であるが、題名は、単に「環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律の一部を改正する法律」とされている。
もちろん、本件で問題にしているのは、「A条例」と「旧A条例」とを同じ条例で改正する場合であるため、そのまま用例となるものではないが、考え方としては、参考にしてよいのではないだろうか。
では、上記の投稿された方が挙げられている理由について私が感じることを、2点程触れておくことにする。
1点目は、平成18年法律第50号は、第304条で「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の一部改正を行い、第308条で「旧高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の一部改正を行っているが、連続した条で改正を行っていないことから、これらの法律は、あくまでも別の法律だと考えているのではないかということについてである。
結論からいうと、この事例からは、直ちにそのような結論は導けないと思う。
この法律の関係規定は、次のとおりである。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号)
(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部改正)
第304条 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)の一部を次のように改正する。
    (略)
(港湾労働法等の一部改正)
第308条 次に掲げる法律の規定中「目的として設立された民法明治29年法律第89号)第34条の法人」を「目的とする一般社団法人又は一般財団法人」に改める。 
(1) 港湾労働法(昭和63年法律第40号)第28条第1項 
(2) 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第36条第1項 
(3) 介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成4年法律第63号)第15条第1項 
(4) 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第13条第1項 
(5) 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第103号)附則第3条の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第2条の規定による改正前の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第32条第1項

この「旧高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正は、いずれにしろ「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」とは別条にしなければいけないので、他に同一の内容の改正を行う法律があることから、改正における経済性を優先したということも十分考えられる。
事実、上記のような他に同一の内容の改正を行う法律がない場合の事例としては、次の事例がある。

公認会計士法の一部を改正する法律(平成15年法律第67号)
   附 則
資産の流動化に関する法律の一部改正)
第49条 資産の流動化に関する法律の一部を次のように改正する。
   (略)
第50条 資産の流動化に関する法律の一部を次のように改正する。
   (略)
特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律による改正前の特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律の一部改正)
第51条 特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律附則第2条第1項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第1条の規定による改正前の特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律の一部を次のように改正する。
  (略)
第52条 特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律附則第2条第1項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第1条の規定による改正前の特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律の一部を次のように改正する。
    (略)
金融庁設置法の一部改正)
第53条 金融庁設置法の一部を次のように改正する。
    (略)

資産の流動化に関する法律」は、上記の附則第51条及び第52条で引用されている「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律(平成12年法律第97号)」により「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」の題名が改正されたものであり、両者は同一の法律である。この事例からすると、通常であれば、「A法」と「旧A法」は連続した条で改正されると考えてよいことになる*1
2点目は、題名の付け方は、見出しの付け方と同様であり、前者の政令の例と後者の法律の例がある場合、法律のほうが上位の規範であるから、法律のほうを参考とすべきとすることについてである。
題名の付け方は、確かに見出しの付け方と共通する部分が多いとはいえるだろうが、私は、それがすべてではないと思うのである。
例えば、各種の法制執務に関する書籍を見ても、題名の付け方については、いろいろ解説がなされているが、見出しの付け方については、それ程解説がなされておらず、後者については、あまり確たるルールがないのではないだろうか。
そして、法制執務的には、例規の効力における上位・下位は直接的には関係がないので、政令であっても、「緑資源公団法施行令等の一部を改正する政令(平成14年政令第219号)」のように、なお効力を有する旧例規と併せて2条建ての改正をしている例があれば、まずその題名を参考にするほうがよいのではないかと思う*2
いずれにしろ、本件の事案は、まだ統一された運用がなされているというわけではないのではないだろうか。実は、冒頭で「A条例の一部を改正する条例」でよいのではないかと記載したが、「A条例等の一部を改正する条例」とすべきではないかという感じがしなくもない。そのようなこともあって、繰り返しになるが、それぞれの判断で決めてよいのではないかと思う。

*1:なお、資産の流動化に関する法律(旧特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)の法律番号は、平成10年法律第105号であり、金融庁設置法の法律番号は、平成10年法律第130号である。

*2:ただし、平成14年政令第219号は、第1条で緑資源公団法施行令(昭和31年政令218号)を、第2条は緑資源公団法施行令附則第12項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧農用地整備公団法施行令(昭和49年政令第205号)の改正を行っている例であるため、そのまま参考にはできないのであるが。