罰金と過料(下)

近年、自治体における過料の活用について語られることが多い。財団法人日本都市センター『行政上の義務履行確保等に関する調査研究報告書』(P33)には、「最近では、空き缶、たばこの吸殻等の投捨て、路上喫煙等、住民生活に身近な違反行為を取り締まるため、過料を活用する自治体が増えてきている」と記載されている。
過料を活用している例としては、やはり千代田区における喫煙に対する規制を思い浮かべるが、喫煙に対する規制というと、平成21年3月31日に公布された「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」も過料を用いており、その理由として、松沢成文受動喫煙防止条例』(P96)では、次のように記載されている。

喫煙行為に対し条例で罰則を設けることは理論上可能ではあろう。しかし、現在の我が国における喫煙に対する意識を考慮すると、それ自体は合法的な行為である喫煙を、ただちに反社会的行為と言い切るにはいささか躊躇せざるを得ない。他自治体の路上喫煙防止条例における罰則はその多くが過料であるといった実態をも考慮すると、この条例の罰則として刑事罰を設けることに対し、社会的コンセンサスを得るのは難しいだろう。そこで、本条例に関しては行政罰である「過料」を科すこととした。

この反社会的な行為とはいえないから、刑罰を科すべきではないという考え方は、「罰金と過料(上)」で記載したとおり、原則論ではあるのだが、所詮程度問題であろう。条例による規制は、一般的には法的規制がなされていない事項に対して行うものであるため、その限りではすべて合法的なものに対するものなのであるから、この考え方を徹底すると、結局条例には刑罰を設けることができなくなってしまうことにもなりかねない。
また、他の自治体の路上喫煙防止条例における罰則はその多くが過料であるということについては、上記の千代田区の例は、その本質論よりも、実効性の確保を考慮してもののようである(千代田区生活環境課『路上喫煙にNO!』(P25〜)参照)*1
さらに、これらの規制目的を比較すると、神奈川県のそれは受動喫煙防止であるのに対し、千代田区のそれは生活環境の保全であり、その目的を異にしているので、必ずしも同様の規制内容とする必要はないであろう。むしろ、神奈川県のそれは、その目的を考えると、罰金としても格別の問題はないように感じる。
こうした点を考えると、松沢・前掲書の記載は、あまり理論的であるとは思えない。
やはり、昨今の自治体における過料の用いられ方は、理屈よりも実践的な事情を重視しているようである。

*1:ただし、財団法人日本都市センター『行政上の義務履行確保等に関する調査研究報告書』(P139)によると、検察との協議において、刑罰法規との構成要件の重なり等の点で指摘があったとのことであるが、この辺りのことも含め、検察協議については、別途取り上げることにしたい。