内容は変えないのに題名を変える例(上)

2010年6月4日に公布された「国際連合安全保障理事会決議1874号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法」は、次のとおり複雑な立法過程を経た。

  1. 2009年7月、当時の自公政権下で政府が「北朝鮮特定貨物の検査等に関する特別措置法案」として国会に提出
  2. 衆議院で可決され、参議院に送付されたが、衆議院解散に伴い廃案
  3. 同年10月、新政権下で政府が本法案を提出
  4. 2010年5月、国会で可決・成立

上記の2つの法案は、(1)題名、(2)旧政権下の法案(以下このシリーズでは「旧法案」という。)第9条第2項に相当する規定が本法には置かれていないことの2点が違うのみで、他は全く同じ規定となっている。この第9条第2項*1は、本法案の国会における審議において、確認的な規定に過ぎないという答弁がなされていることからすると*2、本法案と旧法案とは、その内容については全く変わりがなく、題名のみ変わっているということができる。
では、この法案の題名を変えた理由であるが、次回に国会審議の状況を確認した上で、若干の感想を記載することにする。

*1:旧法案第9条第2項は、「自衛隊は、防衛省設置法、自衛隊法その他の関係法律の定めるところに従い、この法律の規定による検査その他の措置に関し、海上保安庁のみでは対応することができない特別の事情がある場合において、海上における警備その他の所要の措置をとるものとする」という規定である。

*2:本法に旧法案第9条第2項の規定がない理由として、国会における審議において、「(当該規定は)自衛隊が既存の法律に基づく措置を実施することがあり得ることを確認的に規定したものであるというふうに考えておりまして、私たちは、それを設けなくても、北朝鮮に対する輸出入の物品をしっかりと貨物検査という方法、その他の手法により制限することは可能だ、したがって、法的効果の面において何ら問題はなく、同じであるというふうに考えており、(中略)自衛隊法に基づく海上警備行動その他自衛隊の任務や権限に変更が生じるものではないというふうに考えて」いるとの答弁がなされている(衆議院法制局第一部第一課 瀬川謙一「安保理決議の実行性確保のために〜国際連合安全保障理事会決議1874号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法」『時の法令NO.1871』(P27)参照)。