行政機関等の共同設置(下)

行政機関等の共同設置について、田口一博「地方自治法2010年改正案について」(自治総研通巻379号2010年5月号)*1には、監査委員事務局と議会事務局の共同設置に関し次のように記載されている。

監査機能の充実強化を図るため、監査委員事務局の共同設置を認めようとする改正である。第29次地方制度調査会における議論に基づくものである。基礎自治体中心主義による権限委譲が進められる一方で、発生件数が非常に稀な事務などでは単一の市町村ではノウハウの蓄積が困難なものが多く存在している。このような事務の監査を行う場合や、自治体間で相当異なる事務処理の方法について、比較検討して効率性を高めようという際には共同設置することに有用性も見出せるが、事務局を共同設置した場合、議会の会期、特に決算審査を行う際に監査委員事務局からの議事説明員の日程をどう調整するかという困難な問題があるため、現実には利用は難しいであろう。 
行政機関「等」には、議会事務局が含まれている。国会両院の法制局を統合しようという話すら進んでいないなか、大きなお世話であるが、意思決定に直接かかわる議会の補佐役を仮に共同設置した場合、直ちに利益相反行為となる場合の問題、前述の議会会期の調整の問題など、実務的には利用はあり得ないことであろう。今回の三法案は地方六団体側からの要望があった事項について立案したことになっているが、議会事務局の共同設置が六団体側から要望されたことは、これまでにない。

議会事務局については、上記の議会会期の問題に加え、場所的な問題、つまり議場がある場所に事務局がなければ事務を行うことは困難であろうから、共同設置は利用されることはないように思っている。
ところで、総務省自治行政局市町村体制整備課による「行政機関等の共同設置に係る質疑応答集」には、想定される共同設置の例として、次のように記載されている。

まず、議会事務局の共同設置としては、条例立案のための法制的な専門性を確保するために議会事務局の法制担当課や法制担当職員等を共同設置することが想定される。 
また、行政機関の共同設置としては、都道府県の保健所の管轄区域が中核市等の周辺で分断されている場合等に、事務執行の効率化と体制の強化を図るため、都道府県と中核市等により保健所を共同設置することが想定される。 
さらに、内部組織の共同設置としては、滞納整理部門の徴収体制の強化を図るために税務課等を共同設置するなど、事務の内容に裁量性がなく定型的である分野における活用が想定される。 
加えて、委員会若しくは委員の事務局の共同設置としては、専門性を要し、かつ、中立性・独立性が求められている監査委員事務局を共同設置して監査機能の充実強化を図ることなどが想定される。

監査委員事務局の共同設置については、田口・前掲論文に加える以上のものはない。
議会事務局については、総務省は事務局そのものよりも、法制部門の共同設置を想定しているようである。しかし、私は、法制部門だけ切り離して共同設置することが、果たして機能するか疑問に思っている(なお、2011年7月1日付け記事「議員提出条例案の審査体制」参照)。
保健所については、いろいろ言うほどの知識は持ち合わせていないが、これを共同設置するということになると、中核市制度を否定することになるのではないかと感じる。
税の徴収部門については、現在、一部事務組合や広域連合により共同で行う取組が一部に見られるところである。しかし、税の徴収という自治体として根幹的な事務を共同で行うことについて、個人的には否定的に考えているので、共同設置についても同様である。
以上のとおり、私は行政機関等の共同設置については懐疑的に見ているのだが、そもそも論として、補助機関である職員は、自治体の手足のようなものであるので、行政機関等の共同設置は、幾つかある頭の手足を共通にする自治体を作ろうとしていることになり、発想として気持ち悪いものを感じる。
ところで、前回(2011年10月7日付け記事「行政機関等の共同設置(上)」)、私は、この共同設置が用いられることはほとんどないのではないかと記載したが、半鐘さん経由で箕面市のホームページによると、大阪府池田市箕面市豊能町及び能勢町の4市町村では、内部組織の共同設置が行われているとのことである。
このような取組が、果たして一般的に活用されるようになるのか、注目したい。

*1:リンクは貼っていないが、インターネットで閲覧が可能である。