いわゆる私的諮問機関に関する判例について(5)

今回は、今まで取り上げてきた判例について総括し、まとめとしたい。
これまで取り上げてきた判例は、いずれも附属機関に当たらないとする自治体側の主張を退けているが、裁判所は、形式的に法の附属機関の規定を引用し、あとは自治体側の主張に理由がないとしているだけであり、その本質論まで踏まえて判断しているとは思えない。
その自治体が主張している事項は、大別すると次の2点である。
(1) 当該機関の業務がいわゆる行政組織に当たらないこと。
(2) 当該機関が臨時的なものであること。
(1)の主張は、組織に関する事項が法律事項とされている理由が権利義務に関する事項であると考えられていること*1を根拠にしているのではないかと考えられる。しかし、国の審議会等については、以前は法律事項であったが現在は政令でも設置できることとされていることからすると*2自治体の附属機関についても理論的には必ず条例事項にしなければいけないというものではないことになる。つまり、附属機関は条例で設置しなければならない理由は、法でそのように定められているからとしか言いようがないため、それが行政組織に当たるとか当たらないといった主張を行っても意味がないことになる。
(2)の主張については、臨時的、一時的なものであれば要綱設置でもよいという見解もあるが*3、行政実例は否定しており*4、法第138条の4第3項及び第202条の3の文理からしても、裁判所にこの主張を認めてもらうことを期待するのは危険だろう。
今回取り上げた判例における機関は、判決文を見るかぎりでは附属機関でないと主張することは無理があり、その運用が適切でなかったということになってしまう。具体的にどのような点に留意すべきかについては、2008年2月8日付け記事「「私的諮問機関(上)」で記載したとおりである。
そうした運用が難しいのであれば条例化せざるを得ないが、例えば福岡市は、「福岡市附属機関設置に関する条例」を制定し、基本的にこの条例を附属機関の設置根拠としているが、条例には附属機関の名称及びその担任する事務のみ定め、他の事項は附属機関の属する執行機関の規則で定めることとしている。
また、横浜市も「横浜市附属機関設置条例」を制定し、基本的には福岡市と同様のやり方をとっている。なお横浜市は、附属機関に分科会、部会等を置くことができる規定もこの条例に定めており、工夫している。また、委員の定数もこの条例で規定しているが、これは必ずしも条例で規定しなければいけない事項ではないだろう。
このように条例に規定する事項を簡略化していく方法は、参考になるのではないだろうか。

*1:2007年4月21日付け記事「自治体の組織(1)〜はじめに」参照

*2:2007年4月21日付け記事「自治体の組織(1)〜はじめに」参照

*3:例えば兼子仁『自治行政法入門』(P81)など

*4:昭和27.11.19自行行発第139号行政課長回答